ストック1

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12/24/2025, 11:21:24 AM

いよいよ冬本番になってきました
夏に猛暑であえいでいた私が嘘のように、今は寒さで凍えているのです
今年は特に寒い
別に平年に比べて特別気温が低いとか、そういうことはなくて
むしろ、今年は高い部類でしょう
なのになぜ凍えるのか
この寒さには明確な理由があります
こたつです
我が家では堕落の象徴であるとして、今年からこたつが廃止されてしまいました
冷えきった寒さの原因はこれをおいて他にありません
たしかに、私たちはこたつでゴロゴロしすぎました
こたつでだらけるのは気持ちがいいものですから
過去には出るのが億劫になりすぎて、水分補給を怠り、ちょっと体がよろしくない状態になりかけました
でもね、こたつで暖を取っていた人間がそれを突然取り上げられたらどうなると思います?
それがこの状況です
まるで氷河期
このままでは、我が家が寒さによって自然淘汰され、絶滅したところで不思議ではないレベルになります
しかしこたつはレンタル倉庫へ隠匿され、私では取り戻せません
ならばこたつは諦め、別の方法で暖を取る必要があるのです
私は閃きました
こたつという、遠い日のぬくもりに代わる方法はこれだ、と
ベッドに潜って、布団に使い捨てカイロを貼りまくるのです
これで温かい中でくつろげます
問題は、カイロはいつか冷め、補充をしなければならないという点
私は暖かくしてだらけるため、さらなる改善を目指すのでした

12/23/2025, 12:27:20 PM

揺れるキャンドルは風前の灯火
この火が消える時、私の命も消えるだろう
そしてきっと、その時は遠くない
死神の足音はすぐそこまで来ている
贅沢は言わないが、最期に家族に会いたかった
好物のコロッケを食べたかった
だが、そうもいかない
もうじき、私の寿命も尽きる
蝋も溶けて、あと僅かしか残されていないようだ
ついに私の目の前に死神が現れ……
その後ろからやって来た別の神によって殴り飛ばされた
何だこの光景は

「何をするんですか、生命の女神!」

死神がドクロ顔でカタカタ文句を言う
仕事の邪魔をされて立腹しているようだ
腹はなく、骨しかないが

「殴ったのはごめんね
でも時間がなかったから
あのままだと、この人の魂を送っちゃってたでしょ?」

生命の女神は少し申し訳なさそうに言った

「阻止したということは……この者はまだ死ぬべき時ではないと?」

「生まれる時、手違いで短いキャンドルを渡しちゃってたのよ
うっかりしてたわ」

どうやら、私は本来の寿命より短く設定されていたらしい
そういうのは気をつけてくれ
そちらにとっては多くいる人類の中のひとりでも、私にとって命はひとつなのだから
しかしこの流れだと私はもう少し生きられるのか?

「ハァ
不注意にも程があるでしょう
人の命をなんだと思ってるんですか」

死神がなんか言ってる
いや、寿命を迎えた魂を狩って送る死神だからこそ、命の重みを知っているのかもしれない

「ということで、ごめんね?
お詫びに本来の寿命より長く生かしてあげるから許して?」

ちょっとずるい気もするが、原因は向こうのミスだし、もらえる寿命は遠慮なくもらっておこう
私もちょうど長生きというものをしてみたいと常々思っていたのだ

「じゃあ、キャンドルをゴッドLEDに変えておくね
これで火よりも長く生きられるし、ちょっとやそっとのことじゃ死なないわよ」

ゴッドLEDがなんなのかは知らないが、きっとLEDよりも長寿命の電気なのだろう
ありがたいことだ
今まで重かったのに、なんだか体が軽く、元気になっている気がする
体の奥底から健康なのを感じるくらいに、私は絶好調だ

「まったく
今度から本当に気をつけてくださいよ?」

「うん、なにか対策を考えておくよ」

二柱の神はそんなことを言いながら、去っていく
去り際に死神がこちらに振り向いた

「しばらく僕の出番はないようなので、安心してください
では、いずれ遠い未来に会いましょう」

そう言うと死神は私に手を振って、そのまま生命の女神と共に消えるのだった
なんとも、性格の良さそうな死神だったな
生命の女神も、親近感のわく神だったし
また会いたい、とはあまり思わないが……
さて
このあと、家族が瀕死であるはずの私がピンピンしているのを見て、大層驚いた後に大喜びしてくれた
そういうのを見ると、生きててよかったと思えるな

12/22/2025, 11:48:20 AM

光の回廊と名付けられたランウェイ的な細長い床が、マス目ごとにピコピコ色を変えながら光っている
周りには期待の眼差しを向ける観客たち
俺は今すぐ帰りたい気分だった
ここは頭のおかしい友人による実験の場
そして、俺と観客はこの実験の犠牲者なのだ
事情を知る俺は、バンジージャンプ寸前の人の気分だが、観客はのんきなものだ
これから面白いことが起きると信じているのだから
残念ながら面白いことなんて起こらないよ
友人の、期待の新星の芸人が披露するネタをタダで見られる、という甘言に乗せられ、この会場に来たことを心底後悔することになる
まったく
売り出し中だからどれだけウケるか知りたいので無料観覧できますよ、じゃないんだよ
来る客も客だ
こんなに怪しいのに、よく期待できるな
友人の実験、と言っていいのかどうかすら怪しい、意味不明な思いつきは以下の通りである
期待させておいてゴミみたいなネタをやった時、観客はどんな反応をとるのか
バカじゃないのか?
それを知ってどうする?
俺を巻き込む理由はなんだ?
自分でやればいいんじゃないか?
俺が色々あって頼みを断れない立場にあるからって調子に乗りやがって
ムカつくけど逆らえない以上やるしかない
俺は覚悟を決めて光の回廊へ出る
色の変わる光の回廊か
明らかに無駄な仕様と名前をつけた理由を知りたいが、まあ大した意味はないのだろう
せっかくなら、俺の考えうる渾身のつまらないネタの要素として使ってやろう

「わー、色が変わる床だー
紫の時だけ踏んでやろう
……あー、この床、紫には光らないのかぁ
なら、赤と青を同時に踏めば紫を踏んだことになるんじゃね?
おおすごい、そんなアイディアを出すなんて、俺あったま悪ぃー
どうも、ありがとうございましたー」

あっけにとられていた観客の視線が徐々に殺意に変わっていくのを感じる
皆さんの貴重な時間を奪ったことに対して本当に申し訳ない気持ちだけど悪いのは俺じゃないんだ
俺にこんなことをやらせた友人なんだ
背中にチクチクとした視線を感じながら俺が急いで裏へ戻ると、すでに友人の姿はなく
代わりにメモにこんなことが書いてあった

『思ったより普通でつまらない反応だったね
がっかりだよ
飽きたから先に帰る
あとはよろしく』

あのクソ野郎、人にこんなことやらせといて何ひとりで勝手に帰ってんだ!
というか、あの地獄を俺ひとりで処理しろと?
あんなに俺に殺意を向けられてんのに?
本当の地獄はこれから始まるのだ
そんな確信の中、俺は光の回廊へ戻っていく
光の回廊が俺の目には暗黒の回廊に見えた

12/21/2025, 12:47:02 PM

願いは叶う
降り積もる想いが貯まることで
僕は、願いへの想いの強さで、定期的にポイントが得られる
願いへの想いから熱意が失われれば少ないポイント
強烈な熱意があれば、多くのポイントが手に入るのだ
そのポイントを消費することによって、願いを叶えるチャンスが巡ってくるわけだが
問題は、叶う願いはランダムで、強く願うことほど確率が低いということだ
せんべいを食べたいとか、そういうレベルの願いなんかは高い確率で叶う
しかし、人がなんとしてでも叶えたい、と想うようなものは、確率が低くなっている
僕はこれを、願い事ガチャと呼ぶ
そして、一番の願いは恐ろしいほど全然叶わない
トップクラスの願いは、当選不可能と思えるほどめちゃくちゃ低確率なのだ
何度やっても、叶うことはない
これまでどれだけのポイントを消費したことか
途中で挫けそうにもなった
けど、その苦労もこれで終わりだ
今日のポイント消費で確実に一番の願いは叶う
なぜかって?
その理由は、僕がこのシステムを願い事ガチャと呼んでいる点にある
別に、ランダムだからという理由だけで呼んでいるわけじゃないんだ
ガチャといえば、一定回数回すことによって起こる救済機能
確定排出、いわゆる天井というやつだ
普通の人は天井につくほどポイントは貯められない
願いへの強い想いを、そこまで長い間持ち続けられないからだ
しかし、僕は違う
常人では考えられないような、強い想いで願い続けていた
だから天井につくほどのポイントを貯め、消費できたのだ
さあ、今こそ願いを叶える時
これが最後のガチャになるだろう
他がどんな結果になろうと、最後の確定排出だけは約束されている
僕は願い事の10連ガチャ的なものを回し、ついに一番の願いを叶えるのだった

12/20/2025, 11:50:08 AM

私には、不思議な友がいた
顔も知らないし、どこの誰なのかもわからない友だ
私たちをつなぐものは文通
お互いに、名前や身元につながることを書いてはならないという決まり
手紙の内容は日常のちょっとしたことだ
何が美味しかったとか、こんな面白いことがあったとか、映画を見たとか
そんな他愛もない話題
文通の始まりは、私の机の引き出しに、覚えのない手紙があったことだった
手紙には、差出人がある力によってどこかへと手紙を送ったということ
受取人が、手紙を書いて引き出しにしまえば相手への返信ができることが書いてあった
私は試しに引き出しに書いた手紙をしまった
すると、手紙は消えていたのだ
そこから文通が始まる
お互い中身だけでなく、手紙の見た目にも工夫をしたりした
私は手紙にリボンをつけたり
相手はおしゃれな切手を貼ったり
そんな封に文通を続けていく中で、お互い違和感を覚え始めた
そしてわかったのは、生きる時代が違う、という事実
この手紙は、時を超えていた
相手の時代は現代から40年前
その時私は生まれてはいない
この人は今、どこで何をしているのだろう
興味を持ったが、身元につながることは言ってはいけないルール
破れば手紙を送る力は失われるらしい
なので、私は気になる心に蓋をした

ある日、相手から来た手紙を読んだ私は、ショックを受けた
あと少しで、手紙を送れなくなるそうだ
手紙を送る力が消えかかっているのだという
私たちは最後の手紙で、お互いの身元を明かすことにした
どうせ力が消えるのなら、最後にルールを破っても問題ない、という考えだ
最後の手紙が送られてくる
そこに書いてある名前や情報を見て、私は鳥肌が立った
私が手紙のやりとりをしていたのは、私の亡くなった祖父だったのだ
そして、遠方の両親から、そのタイミングで封筒が送られてきた
生前に祖父が、今日この日に私に渡してほしいと話しており、預かっていたのだと両親に電話で告げられた
封筒には、祖父からの手紙が入っており、私が送った手紙に付けたリボンで、装飾も施されていた
この装飾が、時を結ぶリボンとなって、私の文通の相手が確かに祖父だったのだと確信させる
私は早速手紙を読んだ

手紙には、文通がとても楽しく、祖父にとって宝物だったこと、孫がかつての友だと気づいた時、とても嬉しかったこと
私が文通する頃には、自分はこの世にいないことが残念だということ
そして、私への感謝がつづられていた
涙が止まらない
私も、祖父と手紙について語り合いたかった
そして、時を超えた友として接したかった
私も、祖父への……友への感謝の気持ちでいっぱいだ
近いうちに、祖父の墓参りに行こう
手紙が届いたと、報告するために

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