彼は太陽のようだと、人々は言う。確かにその通りだと俺も思う。垂れた瞳のその綺麗なグラデーションも、その髪の色も、皆を照らすような明るい笑顔も。彼はまさに太陽と呼ぶに相応しい。俺はいつだって彼の横で、彼の光を受けて輝けるこの立場が好きだった。
「__…、くん。」
「おう!どうした?」
前を歩く彼の名を、気付けば口に出していた。ぱっと振り向いてくれた彼は、相も変わらず眩しくて。
「なんでもない、ほら早く行くぞ!負けた方の奢りだ!」
肩を小突いてから駆け出した。はぁ!?と素っ頓狂な声が聞こえ、その後すぐに後ろから一定の足音が聞こえてくる。追い抜かれる間際、横から聞こえた特徴的な笑い声に脳裏を過ぎった彼の笑顔は、やっぱり太陽のようだった。
人と人ってさ、やっぱり出会った時の関係値は0だろう?当たり前だけどさ。そこから一つ一つ積み重ねていくから仲良くなれる訳で。みんな当たり前のようにこなしていくけれど、それって結構すごいことなんじゃないかな、ってたまにふと思うんだ。だって、俺と君が出会った時もそうじゃないか!0から知り合って一緒に仕事をこなして、段々と仲が深まって、一緒に遊びに行くようになって。こうしてきみの家で一緒にのんびりできるのが奇跡みたいで、実際奇跡な訳で、俺嬉しくてさぁっ…!
そんな事をツラツラと述べるお前の顔は真っ赤で、こいつ俺がシラフなこと覚えてないんじゃない?ここまでベロベロに酔っ払っておいてよく口が回るな。そんな事を頭の片隅で考えつつ、抱きついてくるお前の髪を撫で付ける。
…こいつ、髪の手入れしてないとか言ってなかったっけ?なんでこんなに綺麗なんだ。ああ、多分このままこいつは寝るんだろうな。片付けは明日一緒にやろう。
どうでもいい事にのんびり脳を働かせながら、残っているツマミをちまちまと口に放り込む。こいつがこの状態になるといくら離してもくっ付いてくるものだから、俺もとっくに諦めていた。
でもまあ確かに、こんなにスキンシップを取るようになるなんて、出会った時の俺達が聞いたら目が飛び出るほど驚くんだろう。こいつの変わりようなんて一目瞭然だ。そう考えると、彼の言っていることにも納得できる気がして、規則正しく上下に動く肩を見つめながら俺は静かに笑みを零した。
「同情かい?」
目線の先にいたあいつは、いつの間にか目の前にいて。猫のように双眸を細め、俺の顔を覗き込んだ。
日常茶飯事だと、慣れているとお前は言う。でも、それなら、お前のその苦しそうな顔はどう説明するつもりなんだ。
これは、ただの同情じゃない。俺がガキの頃から姿ひとつ変わりやしない、そんな化け物じみたお前に向ける俺の感情は、同情なんて生ぬるい言葉で一括りにできるものなんかじゃない。
まっしろで今にも折れそうな細い手首をがしりと掴む。
「俺と行こう、どっか遠いところに。」
広がる景色に、彼の名を呼ぼうとした口を噤んだ。舞い落ちる枯葉の中で薄ら見えたのは、彼の後ろ姿。桜によく似合うと思っていたふわふわとした黒い猫毛は、存外秋の橙にも映えて。見蕩れていれば、目の前の癖毛がふわりと動いた。気付けばいつの間にか彼はこちらを振り向いていて、にぱりと口を大きく開けて俺の名前を呼びながらこちらへ駆け出す。普段は猫のように飄々としている癖をしてその反応は飼い主を見つけた犬のようで、俺も思わず笑い声を上げて手を振った。