予報によれば、来週の頭に最高気温20℃を超える予想となっている、最近最近の都内某所です。
某本物の稲荷狐が住まう、某不思議な不思議な稲荷神社は、昨今の乾燥する空気で枯葉がいっぱい。
カサカサ鳴っては風に飛んで、敷地内のあっちこっちを旅しています。
神社に住まう稲荷狐の家族の末っ子は、吹っ飛ぶ枯葉も積もる枯葉も大好き!
どちらも子狐にとって、良い遊び道具です。
ジャンプして飛び込めば風圧で舞い、
追いかければそれぞれがランダムに逃げます。
昔は勝手に火をつけて、焼き芋なんてしてたのよ、
とは、●●●●年を生きるおばあちゃん狐の昔話。
消防法が少し難しくなった現在は、近隣に迷惑がかからないように、
なにより周囲を不安にさせないように、
コンコン子狐が生まれる少し前から、枯葉での焼き芋は、とっても珍しくなりました。
ところで世の中には
この枯葉を使って自作可能な
キャンプに最適、着火剤が存在するそうで。
「そうだ。 そう。しっかり押して詰めて」
「つめる!いっぱい、つめる!」
その日の稲荷神社では、宿坊を利用しているニンゲンの男性に主催してもらって、
枯葉でキャンドルモドキの工作教室が開講中。
稲荷子狐とその友達の、化け子狸と化け子猫と、子猫又と子カマイタチが、
せっせこせっせこ、小ちゃい小ちゃい試飲用紙コップに、枯葉をポンポン押し込んでいます。
「うう、うぅぅ、 こぼれちゃった」
「また詰め直せば良い。大丈夫。気にしないで」
「うん」
「いろどりが無いわ。ピンクとか、黄色とか」
「流し込むロウソクのロウに、色を付ければ良い。
あとで手伝ってくれるかな?」
「てつだう!」
ポンポン、ぽんぽん。
自分だけのカッコイイ、あるいはかわいい着火剤モドキを作りたくて、子供の人外ズは一生懸命。
うまくできたら、自作着火剤をキャンプ場に持っていって、
火起こしからの調理からの実食、キャンプ遠足をする約束なのです。
「なにつくろう、ねぇ、何つくる」
「私、普通に焚き火して、マシュマロ焼きたいわ」
「じゃあ私、焼いたマシュマロに付けるための、チョコをとかす。チーズも良い!」
「キツネおもち焼く!おあげさんも焼く!」
「ぼ、僕、それじゃあ、お茶いれる……」
きゃっきゃ、きゃっきゃ。
皆みんな、枯葉を紙コップに押し込んで押し込んで、それを使って何を焼くかで大盛り上がり。
よしよし。良いことだ。
工作教室を開講したニンゲンの男性は思いました。
子供たちが着火剤づくりに夢中になれば、すなわち子供たちはその間、外に出てゆきません。
子供たちが外に出なければ、このニンゲンのバイクはひとまず安全なのです。
というのも数時間前
子狐たちは神社の外で元気に遊んで
結果としてニンゲンが持ち込んでおったバイクにアレコレこんこんニャンニャン
イタズラし放題であったのです。
「完成したかな?」
男性は子供たちを見回して、言いました。
「それじゃあ、この紙コップに流し込むための、ロウを溶かそう。手伝ってくれるかな?」
はーい!はーい!
カラカラいろんな色の小ちゃいロウソクが出てきて、人外子供たちの目はキラキラ!
「好きな色を3本選んで。それを砕くんだ」
「わかった!」
「ピンク!私、ピンクがいい」
さっきまで夢中だった枯葉の次は、ロウソクです。
子狐たちは、これにも一生懸命。
やがてロウソクは溶かされて、紙コップに注がれて、冷えて固まるまでの間、明るい空の下に全部仲良く、並べられたとさ。
前回投稿分から続くおはなし。
今日も平和な「ここ」ではないどこか、別の世界の職場。世界線管理局です。
前回投稿分の妙ちくりんな金銀ワサビ女性によって、虚ろ目だかぐるぐる目だかにノビてしまった図書館職員・藤森が、
ガラガラガラ、がーがーがー。
ストレッチャーにのせられて、ゆっくり、移動しておりました。
「はーい、患者さん通りまーす」
「かんじゃさん!かんじゃさん!」
ストレッチャーを押しておるのは、被害に遭った職員の友人で、管理局の法務部職員。
ビジネスネームをカラス、または付烏月(つうき)といいました。
なおノビてる藤森の胸の上で、ファシファシ、しゅひしゅひ、シーツなどに穴掘りしておる子狐は、
ただの稲荷子狐でして、特に意味はありません。
単純に藤森のバタンキュにノビてるのを、面白がっておるだけなのです。
特にストレッチャーなる乗り物が楽しい様子で。
「患者さん通りまーす。道あけてくださーい」
「くださーい!」
さて。
前回投稿分の妙ちくりんワサビにやられた藤森、
その妙ちくりんが藤森の体にも、魂にも、悪い影響を与えていないか、調べる必要がありますので、
非科学的、神秘的、魔法じみた体調不良にも対応できる世界線管理局の医療施設へ、
すなわち通称「医療棟」へ搬送されます。
「なに。世界線管理局法務部のシジュウカラが、
東京の図書館で妙ちくりんなワサビを使って、その結果としてこの患者が気絶した?」
はぁ、なるほど?
ストレッチャーが診察室のひとつに到着しますと、
医療棟に勤務する医務官、ヤマカガシが待っておりまして、藤森の目を観察します。
「で、その『妙ちくりんなワサビ』というのは?」
「なんか、『お気に入りの金剛ワサビと銀剛ワサビ』とかいうヤツらしくて。
問い詰めたら色々と情報出してくれたけど」
ほら。コレ。 ふむ。どれどれ。
カラスが渡した情報の束の、1枚目と2枚目に目を通したヤマカガシは、
少し考え事をして、助手さんにそれぞれ指示を出して、うん、と小さく頷きました。
「例のフローリングの12時間暴露を処方する」
ヤマカガシは言いました。
「レプリカほどの強度は不要だ。ひとつ下のレベルの、イミテーションで十分だろう。
要するに、寝れば勝手に治るハナシだ」
フローリングって、何でしょう?
子狐はヤマカガシの言っていることの、意味がちっとも分かりませんでしたが、
カラスは全部心得たようで、助手さんの誘導に従って、ストレッチャーをガラガラガラ。
子狐と一緒に、ゆっくり押してゆきます。
「ふろーりんぐ」
「そうだよん。フローリング。
数少ない、オリジナルが管理局に収蔵されてないチートアイテムのうちの1個だ」
「フローリング?」
「誰でもたちまち寝かしつけてしまうから、
不眠症とか、睡眠不足とか、そういうのにだいたい処方されるよん」
なんだそれ、なんだそれ?
頭にハテナマークを浮かべる子狐と、完全にノビて何も言わない藤森をのせて、
ガラガラガラ、がーがーがー。ストレッチャーは移動してゆきます。
「12時間お昼寝、いってらっしゃーい」
途中で待っている助手さんにストレッチャーを任せて、カラスは帰ります。
「半日ネンネだから、
今日にさよなら、しておいでー」
なんだそれ、なんだそれ?
今日にさよならって、なんだそれ?
子狐はやっぱり、ちんぷんかんぷん。
気がつけば眠気が降りてきて、気がつけば気持ちよく昼寝をしておって、
最終的に、心も体も魂もスッキリ。
藤森は藤森で、1日分の記憶がスッポリ抜け落ちておったとさ。
私、永遠の後輩こと高葉井にも、去年から実は職場の後輩ができて、とうとう「先輩」になった。
アテビさんという人で、アーちゃんと呼んでる。
アーちゃんと私は都内の某私立図書館で、
寄贈本にラベルを貼ったり、
古くなった収蔵本と新しく入ってきた寄贈本のラベルを交換できないか確認したり、
パンパンになりかけてる収蔵庫の本を整頓して、新しい空きスペースを作ったり、
いろんなことをしてる。
ウチの私立図書館は、ちょっと特殊な図書館で、
たまにドチャクソに不思議な来館者がいる。
その日もその日だった。
児童向け閲覧室の受付窓口で仕事をしてたアーちゃんから、応援お願いしますの内線が飛んできて、
最初に私の先輩、藤森先輩がヘルプに入って、
数分後また児童向け閲覧室から内線。
『高葉井さん助けてください』
アーちゃんからの内線だった。
何があったんだろうって多古副館長と一緒に私も閲覧室に行ったら、
長い黒髪が怪しいっちゃ怪しい、
キレイっちゃキレイな、
つまり、要するに、怪しくて若い女の人が、
小さい子供たち10人くらいに
白く光り輝いてるワサビと黄色く光り輝いてるワサビを見せて何か演説してた。
ヘルプを出したアーちゃんは相変わらずの困惑。
副館長より先に閲覧室に来てた先輩は、怪しい女の人の隣でノビちゃってた。
漫画とかアニメとかだったら、多分ぐるぐる渦巻きの目か、虚ろ目かのどっちかだと思う。
「さあ、ワラベたち。邪魔者はワタクシの魔法で眠りについたぞよ。
ワラベたち、見るがよいぞ。これがワタクシのお気に入りのワサビ。金剛ワサビと銀剛ワサビじゃ」
なに「お気に入りのワサビ」って
(去年も来館して副館長に追い出された変人様)
「ちょっとアンタ!またウチの図書館で変なことして、良い加減にしないと出るとこ出るわよ!」
「おやおや多古副館長。おぬしもワタクシのお気に入り、金剛ワサビと銀剛ワサビの輝きを」
「見に来たワケないでしょ!この邪教徒、じゃないわ、邪教主!」
「何を言うか。ワタクシはこのワラベたちを、素晴らしいワサビ様の世界へ連れてゆくのじゃ。
不思議なワサビは偉大なワサビ。
ひとくちそれを食べれば、香りをかげば、
この世の苦悩も根塊も未練も、すべて、忘れ去ることが、できるのじゃ」
はいはい。子供たち。あとアーちゃん。
ここは良くないから一緒に避難しましょうね。
変な女の人の対応を多古副館長に任せてる間に、
私はアーちゃんと10人くらいの子供たちを、閲覧室から連れ出して、別の閲覧室にご案内。
女の人の隣でノビてた先輩は放っといた。
仕方無いっちゃ仕方無い。私ひとりじゃ、先輩を引きずっても担いでもいけない。
「これ。むすめ。ワラベたちを連れてゆくでない。
むすめ。むすめ。 これ。許さぬぞよ」
変な人は私に何か言ってたけど、気にしない。
最終的に変な人は、多古館長が図書館から放り出して、事件解決には20分くらいを要した。
お気に入りのナントカワサビとかいうのは没収されたらしいけど、
最終的にどう処分されたかは、分からなかった。
私、永遠の後輩こと高葉井は、
一昨年、観光目的で先輩の帰省に同行した。
先輩は雪国出身で、一昨年の帰省当時、2月の終わり頃はまだ雪が残ってて、
そして、一番乗りの、本当の最初の、
どこよりも日当たりと雪解けの条件が良い場所の、
斜面にフクジュソウが咲いてた。
『4月直前にならなければクロッカスも咲かない』
雪国出身の先輩は、故郷の寒さをそう説明した。
3月はまだ、ほとんどの花が雪の中だけど、
ギリギリ雪解けの状況や気温の推移が良いと、
2月の終わり、3月の最初の頃、花が咲くらしい。
先輩の故郷で見たフクジュソウを、私はスマホで複数枚撮って、フォルダに残してる。
パンプスじゃきっと登りづらいだろう斜面、
太陽の光をナゾ技術で反射する花びら、
その反射で花びらの中にできる光輪。
当時の私は、「私はきっと、誰よりも早く先輩の故郷の春を知ったんだ」と思った。
先輩が言うには
先輩の故郷は「春」の前に
「冬の終わり」ないし「晩冬」あるいは「早春」
っていう短い季節があるらしい。
よくわかんない(と都民が申しております)
「……ってハナシを、アーちゃんと師匠にしたの」
「アーちゃんはアテビさんとして、師匠?」
「師匠は師匠」
「はぁ」
「そしたらアーちゃんも師匠も、先輩の故郷に行ってみたいらしいの」
「うん。そうか」
「先輩今年はいつ帰省する?」
「何故毎度毎度私の帰省に同行するカタチでだな」
「だって先輩の故郷を誰よりも知ってるのって
やっぱり先輩自身じゃん」
「は……」
…––2月も後半になった。
だいぶ暖かくなって、来週には最高20℃が予想されてる東京の、私の職場の図書館の、
昼休憩に、私は先輩に帰省の予定を聞いた。
先輩は、2月の終わりか3月の最初の頃に、ここ数年は帰省してるらしい。
一昨年の帰省に、私も同行した。
ドチャクソに寒かったけど、先輩の実家のごはんがすごく美味しかったし、
なにより、先輩の故郷で見た一番最初のフクジュソウが、すごくキレイだった。
私こと高葉井の後輩、アテビのアーちゃんは
聞く所によると黄色い花が好きらしい。
で、
月曜は休館日、図書館の仕事がお休みだったから、
個チャでメッセして、喫茶店で会って、
一緒にヌン活しながら先輩の帰省の話をしたら、
『ぜひ!私も行きたい!』
アーちゃんは目を、すごく輝かせて、
『冬の終わりの黄色い花、キレイだろうなぁ』
それはそれはもう、嬉しそうにしてた。
それで
まさかの偶然も偶然、
私とアーちゃんがヌン活してたその近くの席に
私のメイク、特にアイメイクの師匠と
師匠のご友人さんが
ちょうど、何かの仕事の寄り道で来てたらしくて。
『なぁにー?冬の終わりの花〜?』
「で、その師匠さんとアテビさんに、私の帰省の話を共有したワケか」
「師匠、同行させてくれるなら全員分の旅費出すって言ってたよ」
「全員分?」
「師匠、間違いなく誰よりもお金もちなの」
「なる……ほど?」
「で、先輩の帰省、いつ?」
「あのな高葉井??」
はーい、そろそろ昼休憩終了よぉ。仕事なさーい。
上司の多古副館長が入ってきて、私と先輩の肩をポンポンして、先輩との会話は一旦中断。
後輩のアーちゃんも一緒に入ってきたから、
先輩に言っておいたよ、
ってアイコンタクトしといた。
「あのな高葉井、アテビさん、まだ同行について何も決めたワケじゃないからな?」
「ありがとうございます藤森さん、高葉井さん」
「だから、あのな??」
ひとまず、あとの議論は仕事の後で、
ということにはなったけど、アーちゃんはそれはそれは、誰よりも、嬉しそうな顔してた。
【世界線管理局 収蔵品
『10年後のお前からの手紙射出機』】
電子メッセージでも、通話でも、ハガキでもなく、手紙に固執する不思議アイテム。
書記言語すなわち文字を含んだ1枚以上の紙を
包んだ紙製の封筒を装填すると
射出機が「10年後の筆記者が書くと思われる可能性」を100パターン算出し、
ランダムでそのうちの1パターンを射出する。
ただし返信は直径20cmの鋼鉄球に封入され
平均時速170kmで射出される。
<<平均時速170kmで射出される>>
――――――
相変わらず平和な世界線管理局です。
その日も管理局の収蔵部収蔵課には、滅んだ世界からこぼれ落ちてきたチートアイテムが、
他の世界に紛れ込む前に回収されて、管理局の収蔵品として順番に、登録されてゆきます。
「うーん、 んうーーーーぅ……」
郵便ポストに野球のエアー式ピッチングマシンを合体させたようなフォルムの手紙射出機を前に、
収蔵品の情報を入力しておった収蔵課職員・ドワーフホトは、悩みも悩んで首かっくん。
「3通」ほど射出されて穴の開いた収蔵庫の壁と、
手元の射出機の説明書とを見比べておりました。
「本当に、これ、うぅーん……
10年後のあたしが書いた手紙……」
10年後の私から届いた手紙は、
ちゃんと、鋼鉄球の中に封入されているのかしら。
ドワーフホトは収蔵課局員として、それを調べなければなりませんが、
なんてったって、相手は直径20cmの鋼鉄です。
重いし硬いし切断して大丈夫か不明なのです。
どうしてこうなったのでしょう。
お題がお題だらかです。 しゃーないのです。
「スフィちゃんから、何か借りてくるぅ?」
収蔵課局員ドワーフホトの、サポートをしておる魂人形1号が言いました。
「ダメだよぉ。スフィちゃん、今日は出張だよぉ」
同じ顔した魂人形2号が言いました。
どうしよっか、どうしよっかぁ。
3号も4号も互いに顔を見合わせて、首かっくん。
5号など鋼鉄を別の収蔵品のチカラで移動させて、自家製チーズの重しにしています。
『はいッ!はいッ!』
頓挫したデータ収集に、ドワーフホトのサポートをしておる電子生命体、通称6号が挙手しました。
『コンちゃんなら!できるかもぉ!』
「そうだー!コンちゃん、何でも開けられるぅ!」
「頼んでみよっかぁ」
「そうだよ、頼んでみようよぉ」
「さんせー」
そうだ!そうだ!
収蔵課の局員・ドワーフホトと、彼女のサポート役たる魂人形たちは決断しました。
ドワーフホトには、本物の稲荷子狐の友達がおりまして、コンちゃんと呼んでおりました。
稲荷子狐は稲荷狐のチカラでもって、あらゆるロックを解除することができました。
今回も直径20cmの鋼鉄球の中から
稲荷子狐の不思議なチカラでもって
「10年後の私から届いた手紙」を、なんとか、どうにか、抜き取ってくれるかもしれません。
「そうと決まれば、出発、しゅっぱーつ」
行ってきまぁす、ドワーフホトが収蔵庫から出てゆきまして、魂人形たちが見送ります。
1号は先回りで稲荷子狐のお母さんに事情を連絡、
2号は管理局の仕事に協力してもらう報酬として、何が妥当か計算します。
3号と4号は「手紙」によって破壊された壁のあたりの掃除を開始して、
5号は取り敢えず、チーズを味見しておりました。
最終的に稲荷子狐の協力により、鋼鉄球の中から手紙の入った封筒が取り出されたものの、
封入されておった手紙は「10年後のドワーフホトから届いた手紙」ではないと、断言されたとさ。