勝ち負けなんて
最後の体育祭。
俺はお前に、ずっと勝ちたかった───────。
「今日は勝つ!」
「いーや、今日“も”オレが勝つ」
やたらと“も”を強調して言うお前。
1000戦、500勝、500敗。
最後の体育祭。
これで、勝負することはなくなる。
お前が、居なくなっちまうから。
「位置について、よーい」
いつもと同じピストルの音。隣に走るお前。
周りのヤツなんて知るもんか。二人きりの世界みたいだった。
でも、後ろから足をひっかけた奴がいたんだ、お前に。
転んだ。転んだ??立ち上がれよ。何故立たない。最後の、最後の勝負なんだぞ。
「最後はお前に譲る」
……は?
何言ってんだよ、お前。勝ちたいんじゃねーのかよ。
本当は勝ちたい癖に。
「は…?」
気づいたら手を差し伸べてた。
「そんな譲られても嬉しくねーよ。これで引き分け。そんでまた会った時に勝負再開、な?」
肩を組んで、歩き出す。
少しずつ、少しずつ。
お前と居れればそれでいい。勝ち負けなんて、勝ち負けなんて関係ないよ。
君の名前を呼んだ日
目が覚めると知らない街に居た。辺りを見渡してみても人が居ない。
おーい、誰かいませんか、と大きな声で呼びかけるが返事がない。
街はシーンとして静かだった。
暫く歩いてみることにしたが、歩いても歩いても景色が変わらない。
すると声が聞こえた。
「ねぇ、なにしてるの?」
「別に。それより此処は何処?何で貴方以外の人が居ないの?」
「んー。秘密って、言ったら?」
「なんだよ、それ」
そんな意味の無いような会話をしている。
その人はモノクロで、カラフルな景色から浮いていた。
その人だけ何故モノクロなのか。何もわからない。
その人は話が通じない。
1週間。
その人と過ごした。1週間経ってもまだ何もわからない。
「ねぇ、そろそろ気づかない?」
「なにが」
「景色がカラフルなのに対して色がなくモノクロだって事」
「それは見ればわかる」
「そうじゃなくて」
「なにが」
「自分が何者か。お前が創った空想の人物だってこと」
「は?それ、まさか」
「───────っ?」
「正解」
君の正体に気づいて、君の名前を呼んだ日。
君はいつの間にか消えてたね。
「───────…」
「はぁい」
また、会いたいならば君の名前を呼んで。
どこへ行こう
散歩をするのが好きだ。
静かな街、緑がいっぱいに広がる自然、虫たちの声。
今日もいつもの散歩道。
カメラを肩にかけ、ゆっくりと歩く。
そよ風に揺られている花たち。真っ赤に染った紅葉。赤とんぼ。
今日も写真を撮る。
いつもの道を歩いていると抜け道を見つけた。
今日はなんとなく気分が良くてその抜け道を通って行った。
ガザガザと揺れる葉っぱ。ザクザクと落ち葉を踏む音。太陽の差し込んだ美しい光。
思わず見入ってしまった。
真ん中の切り株にはリスやシカなど沢山の動物が集まっていた。
気づいたらシャッターを押していた。
今までになく無意識に撮っていた。その美しい景色を。
数時間ほどその景色に見とれていた。
新しい所へ来てみるのもいいなと感じる。
そう思いながらまたいつもの道へ戻って行った。
さて、明日はどこへ行こうか。
星明かり
星明かりとは、夜空が暗い時に見られる光のことで、特に月のない夜や、星がよく見える夜に顕著になることを指す。
星明かりの夜は静かで美しく感じられる。
アパートのとある一室、隣の部屋のお姉さんの姿が少し見える夜のことだった。
自分の夢が分からなくなってしまっていた自分。
意味もなくベランダに出てみた。
「はぁ…」
星を見ながら溜息をついた。
「なんか悩み事?」
隣のお姉さんの声がする。こちらに話しかけているのだろうか。
まぁ、こちらに話しかけていないのであればこれは独り言ってことで。
「自分の夢とか、やりたいことがわかんなくなっちゃったんです」
お姉さんは話さなかった。
お姉さんの吸ってる煙草の煙が見えるだけだった。
人息吸ったところでまたお姉さんが話し出す。
「まぁ、いいんじゃないの。人生ってそんなもんよ」
「でも……」
「なに、焦らなくても今から色んなことに挑戦して、失敗して。自分の知らない世界を見てみるとか、どう?楽しそうじゃない?それでやりたいことを見つけりゃーいい」
「それで…もし見つからなかったら?」
「それでも見つからなかったら……。それでもいいんだって思うんだよ。やりたいことを見つけないけないってことはないんだからさ」
「ま、困ったらお姉さんのとこおいで」
「……ありがとうございます」
まるで星明かりが、お姉さんの煙草の火が、道を照らしてくれる光のようだった。
影絵
森の奥深く、小さな小屋で絵を描いていた。
大きなキャンパスをイーゼルに置いて。
油絵具の油の匂いが部屋中に充満している。
森の動物たちの鳴き声が聴こえた。
扉を開けると狐の親子。
大きなスクリーンの後ろに狐の子供が行く。
影になった姿が小さい頃に両親がやってくれた影絵を思い出させる。
布団の上で三人で並び、不器用なお母さんとお父さんが自分の為に一生懸命やってくれた影絵遊び。
自分の為に一生懸命練習したのだろうな、そう思いながら思い出に浸る。
自分は狐の親子に見せるかのように影絵遊びを始めた。
初めはよくやってくれていた狐、蝶々、犬、ウサギ。
狐の親子はそれを見て喜んで帰って行った。
そして今日も一人で絵を描く。
たまに影絵で遊びながら。
今は亡き両親との思い出に浸るように。