こはくとう

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8/22/2025, 11:41:47 AM

ある日男は妖精に出会った。
 
 男はどこにでも居るような平凡なサラリーマンだ。
最近は仕事もプライベートも上手くいかず、雲が月を覆い隠している夜の公園のベンチでぼーっとしていた。
 
 その時、男の目の前に妖精が現れた。最初は珍しい蝶々かと思ったが、明らかにちがう、目の前に飛んでいたのは、人間の縮小版に羽が生えたような生物だった。確か妖精をみるのは吉とされていた気がする…。いや、妖精に心を奪われると廃人になると言われていたか…?考えながらも男は妖精を数え始める。1人、2人、3人…。単位ははたして人でいいのか、匹と呼ぶべきか…男は迷いながらも次々と現れる妖精たちを見続ける。そんなことをしていると妖精の1人が話しかけてきた。
 「あなた、私たちが見えるのね。」
「普通は見えないものなのか?」
「今のニンゲンは妖精を信じていないもの。私たちが見えるなんて、何かとても辛いことがあったのかしら?」
「あ…、ああ…。最近ちょっとな。」
「そう。教えて頂戴?」
「実は…会社で―――――。家でも―――――。」
なんで俺…こんなこと話してんだ…?
男はそんなことを考えながらも、口が止まらない。これまで溜め込んできたものがずるずると這い出てくる。

 「そうだったのね…。そうだ。そんなあなたに良いこと教えてあげるわ。私たちの中に、ミッドナイトブルーの羽をもった妖精がいるのよ。ミッドナイトブルーの色言葉を知ってるかしら。神秘的、洗練、優雅…。きっとその子に会えたら、あなた、きっと幸せになれるわ。」
「そうか…。ありがとう。」
 男はその話を信じてはいなかったが、家に帰りたい気分でもなかった。男はミッドナイトブルーの羽の妖精を探すことにした。

 何分たっただろう。空を覆い隠していた雲が少し引き、月が出始めたとき。男は見つけた。空と同じミッドナイトブルーの色をした妖精…。
 ミッドナイトブルーの妖精は男の目を見つめながら優雅にゆっくりと舞い降りてきて、小さい体ながら男の額にキスをした。妖精は妖艶な微笑みを浮かべ、羽と同じ色の空に消えていった。
 
 空と同じ色をした妖精が消え、男がはっと気付いたときには、他の妖精も消え、ただ月明かりだけが、男を照らし出していた。

 その日以来、男は変わった。仕事に行かず、何処にも出掛けず…、何も食べず…。まるで何かを想うように…。

 数日後、男は死んだ。死因は餓死だった。
 
 男が最期に虚ろな目で言ったそうだ。
 
 「ミッドナイトブルーの…あの人…。」

8/21/2025, 11:44:32 AM

ある日、僕の背中に羽が生えた。
びっくりはしたけど、誰だって一度は生身で空を飛んでみたい。その夢が叶ったことで頭がいっぱいで、動揺してる時間なんてなかった。

 次の日、僕は家族や友達に羽を見せて自慢した。
かなり反応が薄くて、僕はびっくりした。羽が生えたときよりも…ね。
 羽が生えてからの僕の移動手段は「空を飛ぶ」一択だった。一度だけ、離陸してきた飛行機にあたりそうになったけど。

 休日は町の空をぶらぶら。クラスメイトを空から眺めるのが結構楽しかったりする。
「今日は誰を観察しようかな~。」
……ストーカーとかいわないでよ?空から見てるだけだから!お、委員長だ。
 今日は委員長に空からついていくことにした。委員長は三年くらい前に出会った親友だ。いつだって僕のことを見て、手を差し出してくれるような…。ちなみに呼び方が委員長なのは、出会ったときそうだっただけで、今はあいつ、日課係。ややこしいから、そろそろ呼び方変えないとな。

 そんなことを考えながら、委員長についていく。
一瞬の出来事だった。委員長の後ろからきた車が、突っ込んできた。
「え…………?」
状況が飲み込めないまま急降下する。
急げ、急げ、急げ…!!!
「いいんちょう!!!!」
「……………………ん?」
「良かった~~~~、委員長、今車に引かれてたぜ。」
「お前なんで……!!ああ俺…、そういうことか…。お前…ずっといたんだな。」
「ずっと?ずっとはいねぇよ、今日はたしかに委員長を空から観察してたけど。」
「なにいってんだ…。お前…死んでんだよ……。」
「え。」
「気付いてなかったんだな。お前がいなくなって、俺結構寂しかったんだ。今日だって、お前の墓参りにいこうと…。」
そう言いながら、委員長は涙を流す。
「そう…だったんだ。でも…でも死んでからだって、羽で空飛べたり、みんなを観察したり...色々楽しいことあるんだぜ。」
「お前らしいよ。」
委員長は涙を流したままの顔でふっと笑いをうかべた。そして、委員長はゆっくりと立つ。その背中には、羽が生えていた。
「さあ行こう、創汰。」
「行くってどこにだ?」
委員長は涙目のままにやっと笑う。
「上に決まってんだろ。」
僕も笑い返す。
「ああ、いいんちょ…、いや、太陽!」

8/20/2025, 11:47:14 AM

なんだったっけ-。
僕の朝はいつもこう始まる。
寝て起きると、昨日の事が思い出せない。
昨日の言葉も、感情も。

「私がまいにち教えてあげる!昨日のこと…!」
いつも昨日の事を覚えていない僕のことを気の毒に思ったのだろうか。クラスメイトの女の子が、いきなりそう提案してくれた。
 それから、僕と彼女はよく話すようになった。昨日の事だけじゃなくて、未来の話もした。将来何をしたいのか、どこで暮らしたいのか-。昨日すら覚えていられない僕にとって、「未来」はとてもとても遠いものだったけど、彼女と一緒にいると、未来だって、とても近くに感じられる。彼女は僕にとっての道しるべだった。

 ある日。
「あの子、病気が悪化して亡くなったんだって。」
「あの子」とは僕といつも話してくれていた、あの女の子だった。彼女はもう治らない病気を患っていたが、毎日学校にきて、残された時間を過ごしていたそうだ。彼女のことを思い出そうとする。将来は画家になりたいと言っていたな、色々なところにいって、初めてのことをたくさんしてみたいとも-。よし、まだ覚えている。
大丈夫。だいじょうぶ。
君のことは、僕がきっと忘れないから。
忘れないよ。だいじょうぶ。だいじょう…

8/19/2025, 4:10:30 PM

何も知らない男の子がいました。
その子は或る人に聞かれました。
「なぜ人は泣くのだろう。」
男の子は分かりませんでした。男の子は知りたいと思いました。それが男の子にとって、初めての「思い」
でした。

男の子はまず、道端で泣いていた女の子に聞きました。
「どうしてきみはないているの?」
「大切なひとがなくなって、とっても悲しいからよ。」

次に男の子は、町にいき、真っ白な服を着て泣いている女のひとに聞きました。
「どうしてきみはないているの?」
「今がとっても幸せだからよ。」

町をでた男の子は、うずくまって泣いている男の子に聞きました。
「どうしてきみはないているの?」
「勝負で負けて、とってもとっても悔しいからだ。」

男の子は或る人のところにもどり、ひとが泣くわけを教えてあげました。
「ひとがなくのはね、とっても悲しくて、とっても幸せで、とっても悔しいからなんだ」
或る人はそれを聞いてにっこり笑い、泣きました。
「どうしてきみはないているの?」
「何も知らなかった君が、知ろうとしてくれていることに安心して、涙が出てくるんだ。」

それを聞いて、男の子はなぜか泣いてしまいました。
或る人は聞きました。
「どうして君は泣いているの?」
「なんだかとってもあついものが込み上げてきたから。これは悲しみ?幸せ?悔しさ?安心?」
「それは君が、これから色々なところに行って、たくさん感じて、いつか答えにおいで。」