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2/22/2026, 12:33:19 PM

〈太陽のような〉

“ヒーロー”――いつも明るく、みんなに優しい正義の味方。
ただ守りたくて守っていただけで、英雄になりたかったわけでも、救世主になるつもりもなかった。

皆と同じなはずなのに、人より何かが優れているという理由だけで、ヒーローに仕立て上げられてしまう。

一人、また一人と助けられなければ、批判されてしまう。
そんなヒーローに、なぜか憧れてしまう僕がいる。

ヒーローなんて映画や漫画の中の存在で、現実的じゃないと言われるけれど、それでも将来何になりたいかと聞かれれば、きっと「ヒーロー」と答えてしまうだろう。

画面に映るヒーローは、迷っている。
ヒーローに戻るか、普通の暮らしに戻るかを。

それでもヒーローは、きっと戻ってくる。
冗談交じりに敵を煽り、市民を助け、振り返って最高の笑顔で帰ってくる。

その姿は、まるで太陽のように眩しい。

2/21/2026, 5:55:28 PM

〈0からの〉

クシュンッ。
真っ暗闇の部屋で、僕はくしゃみをして目を覚ました。
枕元に置いてあるスマホを手に取り時刻を確認すると、まだ夜明け前だということに気づく。
まぁ、起きていようが寝ていようが、行く場所もやることもない引きこもりの僕には関係ない。
そう割り切って再び布団に潜り込むが、なぜか眠れない。
大きく溜息を吐き、「ハァ……」と声を漏らして起き上がる。
スマホを開き、何となくネットを眺めていると、僕と同じように起きている人たちが投稿しているのが目に入る。
いくつかの投稿を眺めているうちに、ふと思ってしまう。
何度も考えたことはあるけれど、理解できない、できるはずがないと自分に言い聞かせ、考えないように心の奥へしまい込んできたこと。
みんな、オタ活や好きなことをするために外へ出て、働いている。
じゃあ、僕はどうだ?
親に甘えて、衣食住はもちろん、スマホ代だって全部出してもらっている。
好きなことと言えばSNSくらいで、それも「これに勇気をもらった」とか、「この人に会うために頑張りたい」と言えるほどの“好き”は見つかっていない。
思えば子供の頃からずっとそうだった。
辞めたいこと、怖いことから逃げて、いつも親に甘えてきた。
みんなが僕よりも先にレベルを上げて、どんどん先へ行ってしまうのを見て、
「僕には無理だ」とリタイアボタンを押して、気づけばもう三年もここにいる。
自分で選んだはずなのに……。
どうして今になって、こんなにも「後悔」という文字が浮かんでくるんだろう。
そう思った瞬間、ふと目を見開き、スマホの画面に視線を落とす。
日付が変わっているのを見て、「あぁ……」と小さく納得した。
そうか。今日は僕の誕生日なんだ。
だから、こんなことばかり考えてしまうのか。
ついでに時間を見ると、考え込んでいたせいか、時刻はもう五時になっていた。
こんなことを思い続けて三年。
このタイミングを逃したら、僕のレベルはずっとゼロのままなんじゃないか。
……なんか、ちょっと嫌だな。
でも、外に出たところで本当に変われるのかも分からない。
それでも、このままじゃダメだよな。
そう思い、クローゼットの奥にしまい込まれていた、ほこりを被ったジャージを手に取り、袖を通してリビングへ向かう。
リビングでは、ちょうど母が朝ごはんを作っていたらしく、久しぶりに顔を合わせた。
すると母は、なぜか涙目になりながら僕に抱きついてきた。
「……0からでも、変われるかな」
そう零すと、母は「ええ、変われるわよ」と言って、さっきよりも強く僕を抱きしめてくれた。

2/17/2026, 10:01:32 AM

〈誰よりも〉

「寂しい」
ふと、そんな言葉が口から溢れた。
久しぶりの休み。
一日中部屋から出ることもなく、だらだらと過ごす今日この頃。
スマホを見るのにも疲れて、ベッドの上で天井の照明をじっと見つめながら、ただ零れ落ちただけの言葉。
きっと、特別な意味なんてないはずなのに。
どうしてこんなにも、胸の奥が痛むのだろう。
別に、嫌なことがあったわけでもない。
辛い出来事が続いているわけでもない。
本当に、ただ普通の日々を過ごしているだけなのに。
何が寂しいのか、自分でも分からない。
そんなことを考えていると、頬が濡れていることに気づいた。
あぁ……駄目だ。止まらない。
どうしよう、なんて慌てたその時、スマホが小さく揺れた。
もう、こんな時に何?
そう思いながら画面を見ると、そこには、
一人暮らしを始めてから会う頻度がすっかり減ってしまった母の名前。
電話に出ると、久しぶりに聞く母の声に、また涙が溢れた。
そんな私を察したのか、「大丈夫?」と心配されてしまう。
あぁ……安心する声だな。
そう思っているうちに、気づけば長い時間、話し込んでいた。
「そろそろ切るわね」
そう言われて、ふと、普段あまり電話をしてこない母が、このタイミングで連絡をくれたことが気になり、理由を聞いてみた。
すると母は、少し照れたように言った。
「なんとなく、久しぶりに声が聞きたくなったのと……一人暮らしで、そろそろ寂しくなってる頃かな、なんて思っただけよ」
あぁ……そうか。
きっと母は、どこの誰よりも、私のことを分かっているんだ。
電話を切ったあと、しみじみと思う。
きっと、いつになっても――
「この人には、敵わない」

1/31/2026, 10:52:18 AM

〈旅路の果てに〉


晴れ渡った空の下、季節は冬が明けたばかりで、風にはまだ肌寒さが残っている。
ふと足元に目を向けると、小さな花がいくつか咲き始めていることに気づき、俺の胸は少しだけ高鳴った。
花といえば、俺がまだ幼い頃旅に出たいと決めたあの日、幼馴染からシオンの押し花をもらったことがあった。
もともと本を読んでばかりいた俺のために、わざわざ「しおり」にしてくれたのが、たまらなく嬉しかったのを覚えている。

こんなふうに昔のことを懐かしんでしまうのは、きっとこの長い旅路がもうすぐ終わろうとしているからだろう。
こみ上げてくる寂しさもあるけれど、それ以上に、俺はあいつに――幼馴染に、これまで僕が見てきた世界や、旅の仲間たちの話を伝えたくてたまらないのだ。
本当は、あいつも一緒に行くはずの旅だった。
けれど、もともと病弱だったあいつは、俺よりもずっと先に、遠いところへ旅に出てしまった。
俺もまだ見たことのない場所へ。

そこがどんなところかは分からないけれど、どうせならあいつの好きな花畑があればいいな……今でこそそう思えるが、当時はひどく取り乱したものだ。「どうしてあいつなんだ」と。あいつにはまだ見たことのないものがたくさんあって、これから一緒に見ようと約束していたのに。
それでも、結局俺はあいつには敵わないのだと思い知らされた。遺された手紙を読み、俺は一人で旅に出ることを決めた。

そしてようやく、俺の旅にも終わりが来た。あいつは一体、どんな顔をするだろうか。
怒るだろうか。「来るのが早すぎる」って。
「もっと多くのものを見てきてほしかった」なんて、そんなふうに言うだろうか。
ああ、早く話がしたい。また昔のように笑っている君に会いたい。

俺がこの目で見てきたもの、この旅路の果てに見つけた景色は全部、すべて君に贈るための贈り物だ。

1/1/2026, 3:23:32 PM

〈新年〉
​チチっ、チチっ……。
外から聞こえる鳥の声で目を覚ます。
「んん……」
ベッドの横にある棚からスマホを手に取ると、画面には『1月1日 7時34分』の文字が目に映る。
(​あれ……? いつの間にか新年を迎えてたんだ…。)
俺、昨日は大晦日だというのに仕事があり、疲れ果てて「少しだけ」と思いベッドに潜り込んだはずだった。どうやらそのまま、深い眠りに落ちてしまったらしい。
​通知画面には、知り合いからの「あけましておめでとう!」というメッセージが何件も並んでいた。
「これは返すのが大変だな……」
苦笑いしながらベッドから這い出し、カーテンを開ける。差し込んできた眩しい初日の出を全身に浴び、少しずつたが意識が「今日」へと切り替わっていく。
​リビングへ向かう、昨夜食べるようと思っていた蕎麦を茹でる。湯気と共に啜る蕎麦は、空っぽの胃に温かく染み渡る。
「そういえば、今年は午(うま)年だっけ……?」
ふと思い立ってスマホで近くの神社を調べる。せっかくの新年だし、このまま何もしないのはもったいないと思い​初詣の準備をして車を出す。神社に着くと、やはり多くの参拝客で賑わっていた。
自分の番が来ると、五円玉を投げ入れ、二礼二拍手。鈴を鳴らし、「今年もいい年になりますように」と静かに手を合わせる。最後にもう一礼して階段を降りた先では、お守りの授与やおみくじが行われていた。
​運試しに一枚引いてみるも、結果は『末吉』。
「おぉ、末吉か」
まぁ凶よりはマシか、と自分を納得させ、おみくじを境内の結び所に結びつける。
​帰宅しすぐにお茶を入れ、コタツに潜り込み。じんわりとした温もりに包まれながら、思う。
今年はどんな年になるんだろう。
​スマホを手に取り、溜まっていた返信を一人ずつ丁寧に返していく。
あらためて、新年が明けたのだと実感する。
「……さて、今年はどんな年にしようかな。」
窓の外の晴天を眺めながら、俺は小さく独りごちた。

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