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12/18/2025, 8:00:16 AM

 冬の寒い日には、あたたかい部屋で本を読むのが好きだ。図書館もいい。子どもの時は、図書館の大きなストーブの近くに行って、夢中になって本を読んだ。じんわりとしたぬくもりと、本の独特の匂いに包まれていた。

 久しぶりに、大きな図書館に行った。あの独特の本の匂いがする。大きな机の一角に座って、本を読む。図書館でしか読めないような大きな辞典なんかも眺めてみる。

 たくさん人はいるけれど、静かだ。まったくの無音ではない。そこにいる人の言葉にはならない思考に取り囲まれている。そういう空気も心地よかった。

 ふと、外を見ると雪が舞っていた。うっすら積もり始めている。雪は、せわしなく動くのに静かだ。音を吸収する気がする。外からもすっぽりと静寂に包まれて、ページをめくる。


「雪の静寂」

12/17/2025, 8:09:33 AM

 夢から覚めた時、ああ夢かとがっかりすることがある。君が見た夢は、そんな感じだったらしい。でも、いつもと違うのは、夢の中で感じた思いがずっと残っている気がすることだ。

 夢では、とても温かな気分になって、幸せだったそうだ。起こったことは、現実ではないけれど、その温かな気分だけは残って、今も心の中に広がっているのだと。
 
 君は、何がが吹っ切れたようなすっきりした顔をしている。たとえ夢であっても、今の心が癒されたのなら、よかったと思う。どんな夢だったのと聞くと、私の顔を見て楽しそうに笑うだけで、教えてくれないのだけれど。


「君が見た夢」

12/16/2025, 6:34:01 AM

 何だか心が晴れないということが続く。そんな時は、外を歩いてみる。
 
 色々な人が歩いている。木々はすっかり葉が落ちて、冬仕様になっている。線路にいつものように電車が走っていく。見慣れた光景が淡々と繰り広げられる。ごちゃごちゃしていた頭の中が少しずつ薄らいでくる。

 いつもは通りすぎる公園も、今日は中に入ってみる。懐かしいような土の感触。まだ残る落ち葉を踏み締める。奥に行くと、一本の木に目が止まった。白い光がぽつぽつと枝先にともっているように見える。近づくと花だった。

 よく見ると桜に似ている。この時期に咲く品種なのだろうか。ほんのりピンク味を帯びた花びらは透けるように繊細だ。それが冷たい風に吹かれて、ちらちらと揺れながらもふんばっている。

 たくましいなあ。木の下に入って、花を見上げる。空は、青く澄んでどこまでも高い。花はかすかにその青を映していた。
 
 もう少しがんばってみるかな。深呼吸すると、キンと冷えた清々しい空気が入ってきた。大きく足を踏み出して、また歩き出した。

「明日への光」

12/15/2025, 9:24:00 AM

 小さい時は、色々なことに夢中になって楽しかった。中でも、何かがずば抜けて優れた人がいたら、きっとその道で何か成し遂げると思った。

 君は、とてもすてきな音を奏でていた。その音が聞こえてくると、みんなが振り向いた。きっとその道の星になるとうわさした。たくさん練習して、ますますうまくなっていっていた。そして、本人が何より楽しそうなのがいいと思っていた。その道の学校に行って、更に腕を磨くことにした君を、みんな応援していた。

 時が経ち、君は元気にしているだろうか。小さい頃夢見たことを、みんなも続けているだろうか。今は、そんなこと、もうとっくに忘れてるよと言うのかもしれない。大人になって夢ばかり見ていられないなんて思っているかもしれない。いや、まだまだ発展途上なのかもしれない。

 たくさんの人の星にはならなくてもいい。そんな大それたことなんてなくっても構わない。あの時のように、君が今も笑顔で楽しんでいてくれるといいなと思う。

「星になる」

12/14/2025, 8:14:31 AM

 この街に引っ越してきてから、時々遠くから鐘の音が聞こえてくることに気づいた。ゴーン、ゴーンと確かに鳴っているようだ。地図で調べてみると、周辺に寺がいくつかあった。

 街を散するついでに、歩いていける寺まで行ってみる。そこには、鐘は見当たらなかった。いったいどこから聞こえてくるのだろう。風向きの加減か、空気の関係か、比較的よく聞こえるときと、そうでもないときがあるような気がする。もっと遠い場所なのかもしれない。
 
 その鐘の音はゴーン、ゴーンと程よい音域でなり、そして、ふぅーんという感じで消えていく。それがとても心地よい。

 ある朝、コーン、コーンと鈍く震える音で目が覚めた。鐘?と思うと、目覚まし音だった。何かの拍子に音の設定が変わっていたらしい。当たり前だけれど、あの鐘の音とはまったく違う。

 もうすぐ、大晦日がやってくる。厳かに響く除夜の鐘を、遠くから聞けるかもしれないと、楽しみにしている。


「遠い鐘の音」

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