外から微かに聞こえるクリスマスソング。
長年ここで骨董品屋をしているが、客はだんだん減り、今では一日に客一人来るか来ないかだ。
まぁ、私はここが好きだから店を閉める気はない。
店内に置いているキャンドルの火がゆらゆらと揺れる。
どうやら、客が来たようだ。
「メリークリスマぁス!」
店内に入ってきたのは、サンタの格好をした男性。
「いらっしゃい。何をお探しかな?」
「ふぉっふぉっふぉっ。プレゼントを貰いに来た」
サンタの格好をした男性は、おかしなことを言う。
プレゼントを渡す側が、貰いに来るとは、どういう意味だ?
「ジジイ、金出しな!」
サンタの格好をした男性はポケットからナイフを取り出し、私に向けた。
どうやら、強盗らしい。
「客がいない店を狙うとは考えたな。だがな……」
レジの下に隠していたショットガンを取り、サンタの格好をした男性に向ける。
「相手が悪かったな。私は元猟師だ。一撃で仕留めてやるぞ」
「やだなぁ爺さん。クリスマスジョークだよ……よ、よいクリスマスをぉぉぉ!」
サンタの格好をした男性は、慌てて店から出ていった。
キャンドルの火は大きく揺れ、消えてしまう。
まさか強盗が来るとは……。
因みに、このショットガンには弾は入っていない。
あのまま切りつけられてたらと思うと、ゾッとする。
まったく……この町も物騒になったものだ。
扉に鍵を掛け、キャンドルに再び火をつけた。
眩しい光が差し込んでいる回廊。
外の光景は光で見えず、ただ眩しいだけ。
確か、俺は入院していて……。
そうか、俺は死んだのか。
ということは、ここは天国?
……とりあえず、進んでみよう。
進むたびに、今までの思い出が外に映し出される。
俺は身体が弱くて、学校をよく休んでいたけど、友達は多いほうだった。
すごく、恵まれていたと思う。
もう皆に会えないと思うと辛いな。
落ち込んでいると、光が俺を励ますように身体を包んでくれた。
まぁ、死んでしまったなら仕方ない。
天国で再会出来ることを祈って、一足先に行くことにしよう。
俺は回廊を進み、天国へ向かった。
夜空からひらひらと落ちてくる雪。
イルミネーションの光と合わさって、幻想的な光景になる。
「イルミネーションと雪、綺麗だね」
「ああ、そうだな」
彼女も、俺と同じことを思っていた。
彼女の手を握ると、少しだけ冷たい。
「手、あったかいね」
「君と一緒にいるからかな」
「ふふっ、私もだよっ」
俺の手を握り返してくる彼女。
これからも、この雪のように、彼女への想いが積もっていくだろう。
手を繋いで、お互い白い息を吐きながら、同じ時間を過ごした。
経年劣化して少しボロボロになった赤いリボン。
小学校低学年の頃、坂井君から貰った物だ。
『これ、たんじょうびプレゼント』
無愛想な顔をしながら渡してきた記憶があるけど、今思うと照れ隠しだったのかもしれない。
当時の私は、好きな男子からプレゼントを貰ってすごく嬉しかった。
その気持ちは今でも変わらない。
今日は小学校の同窓会。
坂井君、来てくるのかな?
「ボロいリボン付けてるなぁ。新しいの買えばいいのに」
私の隣に座った男性が、リボンを見て失礼なことを言ってきた。
「これは私にとって大事なリボンなの」
「お前は昔と変わらず純粋な奴だなぁ」
「もしかして、坂井君?」
「ああ」
無愛想な顔で返事する坂井君。
「坂井君も変わってないね」
「ん?それどういう意味だよ」
「ふふ、ないしょっ」
久しぶりの再会に、私達は会話に花を咲かせた。
少しひんやりとした誰もいない休憩室。
仕事に集中し過ぎて、休憩をするのを忘れてしまっていた。
上司に少し休憩しろと言われ、俺一人だけ遅い休憩をしている。
自販機であたたかい缶コーヒーを買い、椅子に座ってプルタブを開けた。
一口飲むと、ふうー……っと溜め息が出る。
やっぱりコーヒーはブラックに限るが、疲れた脳をリラックスするために、何か甘い物が欲しいな。
残念ながら、お菓子とかは持っていない。
「おつかれさまです。よければこれどうぞ」
同じ職場の女性の田中さんが休憩室に入ってきて、何かが入った小さい包み紙を三つくれた。
「一口サイズのチョコです。コーヒーのお供に食べてください」
「ちょうど甘い物が欲しかったんだ。ありがとう」
「いえいえ。では、私は職場に戻りますね」
田中さんは少し早足で職場へ戻っていった。
もしかして、わざわざ俺のために持ってきてくれたのだろうか?
いや、そんなわけないか……。
手のひらに乗った三つの小さい包み紙。
早速一つ開けると、中には四角いチョコが入っていた。
口の中へ入れた瞬間、甘みが口の中に広がり、幸せな気分になる。
田中さんに感謝しながら、リラックスした。