初心者太郎

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12/20/2025, 5:55:38 AM

—占いの結果—

友人と中華街を歩いていると、占いの店がたまたま目に入った。

「ねぇ、ちょっと寄ってみない?」友人が提案した。
「占いかー、どうせ当たんないでしょ」
「いいじゃん、いいじゃん」

結局、私は友人に根負けして、入ることになった。一人ずつ占うそうだ。

「貴方はもうすぐ、大切な人から大事な贈り物を受け取るでしょう」占い師が言った。

私には、付き合って三年目の彼氏がいる。占いを信じているわけではないが、期待した。

「贈り物って、どんな物ですか?」興味深々に訊いてしまった。
「具体的な物は視えないけれど、小さいわね。でも、貴方にとって大事な物は確かよ」

占い師のおばあさんは、目の前の水晶を見て言った。あれで何が見えているのか分からないが、どうでもよかった。
店を出て、友人に占いの結果を話した。

「それってアレしかないじゃん!」友人は興奮気味に言った。

私達はもう三十代が視野に入っている。友人の言いたいことは分かった。結婚指輪のことを言っているのだろう。

「そうだといいんだけどね」

私は軽く返事をしたが、心の中は熱くなっていた。

「ただいま」

家に帰ると、彼が夕食の準備をしてくれていた。

「おかえり。中華街、楽しかった?」
「うん、楽しかったよ。お土産買ってきたからさ、後で一緒に食べようよ」

彼の姿を見ると、占いの結果が頭によぎる。

「マジか、ありがとう。……そう言えば」彼は料理している手を止め、何かを思い出したように言った。「俺も渡したい物があったんだった」

心臓の鼓動が早くなる。

「手、出して」私の方に来て彼が言った。

私は恐る恐る手を出した。
すると手のひらにのど飴を一つ置かれた。

「え?」
「最近少し風邪気味でしょ?喉が悪くなったら、明日から仕事大変だよ」

確かに彼の言う通りだった。
私の職業は教師だから、喉がやられたら声が出せない。
でも欲しいのはこれじゃなかった。
期待した私が悪いのだ、と言い聞かせた。

次の日、朝起きると身体が軽かった。

「体調はどう?」彼が訊いた。
「治ったみたい」

喉の調子がとても良い。きっと彼からもらったのど飴が効いている。
あの占い師が言っていたことも、あながち間違いではないな、と心の中で思った。

お題:手のひらの贈り物

12/19/2025, 5:27:21 AM

—手紙—

父はオレのことを全く褒めない。

「シンイチのこと、褒めてあげなさいよ」

母は父にいつもそう言うが、褒められたことは一度もない。
クラスで一番の成績表を持って帰った時も、サッカーの全国大会に出場した時も。どれだけ結果を出しても、何も言ってくれなかった。

正直もう慣れていた。中学校に上がった時くらいには、期待していなかった。

そしてついに、その日が訪れることはなくなった。父が亡くなったのだ。社会人になって十年目の時だった。

「何か欲しい物あったら、持って帰っていいからね」母はオレに言った。

父の遺品を整理することになった。

押し入れにしまわれた物も、取り出して順に見ていく。
タンスを開くと、懐かしい物がいっぱい出てきた。

学生時代の成績表や、賞状がある。美術の時間に描いた絵まで保管してあった。ゆっくり目を通していくと、一つ一つに付箋が貼ってある事に気がついた。
父の筆跡だ。コメントが書いてある。

『素晴らしい』とか、『頑張ったな』とか、『すごいな』とか。オレを褒める言葉がいっぱい並んでいた。
それとは別に一枚、手紙が挟んであった。

『自慢の息子だ。将来はきっと大物になるだろう。新一の未来が楽しみだ。』

心の片隅では、ずっと褒めてほしい、とオレは思っていた。
父の手紙を胸に抱え込み、わあわあと涙を流した。

お題:心の片隅で

——

100作品!㊗️

12/18/2025, 3:24:27 AM

—面会—

雪が降る時、この街はやけに静かになる。
特に今のように暗い夜は、車通りもないし、人も家から出ない。
僕は今、夜の街で一人っきりだ。

『ごめん、オレやっちまった』

一時間前、面会室で兄は泣きながら僕に言った。兄は強盗で捕まった。
生活費を稼ぐためだったという。両親のいない僕たちは、いつも貧困状態だった。でも、少なくとも強盗をするほど追い詰められてはいなかった。

『どうしてそんなこと……』
『お前、もうすぐ誕生日だっただろう』

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが切れる音がした。
気がつけば、椅子を飛び蹴って立ち上がっていた。近くにいた看守に制止され、触れることができなかった。

『ふざけるな!そんな理由でやったのか!』

兄は俯き『ごめん』と謝るばかりだった。
僕は気持ちを抑えられず、強制的に面会は終了した。

「本当にバカだ……!」

夜の街に呟いた。
雪の夜は静寂に包まれており、僕のすすり泣く音がやけに大きく響いた。

お題:雪の静寂

12/17/2025, 1:23:37 AM

—予知夢—

夢の中で未来を見ることができる友人がいる。内容はまちまちだが、夢の中で見たことが必ず現実になる素晴らしい力だ。

ある時はテストに出る問題を、ある時は天気が急変する未来を、ある時は事故が起きる場所を。

俺はそんな彼の能力に助けられた。
五年程前、その友人からおもしろい夢を聞いた。

『僕たちが立ち上げた会社が、数年後に大企業になる夢を見た』と。

俺は内定が決まっていた会社を蹴り、急いで準備に取り掛かった。
数年後、彼の言った通り、俺たちの会社は世界中が注目する企業にまで成長した。


「今日はどんな夢を見たんだ?」

通勤中、気になって電話で友人に聞いてみた。いい夢だったらいいな、と心の中で思った。

『今日はおもしろい夢だったなぁ』彼の少し震える声が聞こえる。
「へぇ、それは早く聞きたい」

暗く細い道に差し掛かった。朝早いせいか、人はいない。

突然、背後から走る足音が聞こえてきた。
ゆっくり振り返ると、ナイフを持った知らない男が近づいてきていた。

『君は最近ギャンブルを始めたんだね』友人は続ける。『会社の金を横領してやっているそうじゃないか』

男との距離はだんだんと近づき、そしてついに、持っているナイフで腹を突き刺された。
身体が熱い。

『それを知った僕は腹が立って、君を殺しちゃう夢を見たんだ』
「こんなことをしてタダで済むと思っているのか!」

今出せる精一杯の声で、彼に言った。

『大丈夫さ。だって夢では大丈夫だったからね』

あぁ、本当に素晴らしい力だな、と思いながら俺の意識は暗闇の中に沈んだ。

『今までありがとう』友人は最期にそう言った。

お題:君が見た夢

12/16/2025, 5:13:01 AM

—日の出のベンチ—

最近、早朝の公園を走っていると、いつも同じベンチにお爺さんが座っていることに気がついた。
僕は気になって声を掛けてみた。

「朝早いですね」

お爺さんはゆっくりと顔をこちらに向けた。

「君は、毎朝ここでランニングをしている少年かい?」
「はい、そうです。お爺さんは何をしているのですか?」
「朝を見ているんだ」

お爺さんは、東側の空を指差して言った。太陽が昇る方角だ。

「私はね、病気でもう先が長くない。でも、太陽が昇っているあの瞬間を見ると、生きているって感じがするんだ」

お爺さんは穏やかに笑った。

「ランニング頑張れよ」

それから数日後、お爺さんは公園に来なくなった。
僕は今日もランニングを終えて空を見る。
あの人が言っていたことが少しだけわかるような気がした。

お題:明日への光

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