『来ることのない待ち人』
まず最初に感じたのは、"熱い"だった。
その後すぐに痛みが来た。尋常じゃない痛みに、地面に膝をつく。必死に呼吸をするが、痛みは増すばかりだった。
すぐ近くでカチリという音がした。見ずともわかる。銃の弾をセットしたのだろう。
「終わりだ」
仲間の呼ぶ声がする。回らない頭でも死が近いていることがわかった。しかし、そんな時でも思い出すのは彼女の顔だった。
あぁ…そういえば今日は約束をしていた日だったな。怒るだろうなぁ……。
涙が1粒地面に落ちた。
「約束、守れなくて、ごめん……」
ーー
鳥が大きい音を立てて羽ばたいた。びっくりして窓に目を向ける。
羽ばたいていく鳥の後ろ姿と、ひらひらと落ちる枯葉が目に映った。その葉が最後の1枚だったのだろう、外にある大きな木は寂しい姿へとなっていた。
それらから目線を外し、携帯を手に取る。1時間も前に送ったメールには、返信どころか既読すらついていなかった。
小さくため息をつく。
「遅いなぁ…どうしたんだろ……」
変にざわつく胸を誤魔化すように、カップの中のコーヒーを飲んだ。
【枯葉】
『私の可愛い眷属』
アロマなのだろうか、部屋にはラベンダーのような花の香りが漂っていた。その香りを嗅ぐたびにに体の力が抜け、眠気が襲ってくる。
「あら、もう日付が変わるのね」
その声に導かれるように時計を見ると、針は11時50分を指していた。
女性は準備が終わったのか、長いスカートを持ち、私の目の前に立った。私は椅子に座っているので、必然的に彼女を見上げることになる。
「さぁ、準備が終わったわ」
彼女が指輪を嵌める。
「彼の為にこれまでの自分を捨てるだなんて随分思い切ったわね」
そう面白そうに言う彼女を少し睨でしまったのは仕方がないことだろう。「まぁ怖い」とクスクス笑う彼女は全く怖がってなどいなかった。
「早くしてください。時間がないんです」
「わかっているわ。
…最後の確認よ。私たちの仲間になると今までの生活には絶対に戻れない。それでも本当に悔いは無い?」
「ない」
そう言い切った私に彼女はゆるりと目を細めて「そう」と嬉しそうな声を出した。
「じゃあ、目をつぶって。今日までの自分にさよならをしましょう」
彼女の言葉通り目をつぶる。彼女の指先が私の額に触れた感触がした。時計がボーンと鳴ると同時に、私の意識は暗い闇へと呑まれていった。
最後に聞こえたのは彼女のクスクスと笑う声だった。
「さぁ、起きて。私の____」
【今日にさよなら】
『お気に入りのあの子』
「それでな、あの子めっちゃ強いんやで。いやぁ、成長が楽しみやわぁ」
そう言って笑う彼女。手に持ってるグラスの中の氷がカランと揺れた。
私がふーん、と返事をすると彼女は唇を尖らせた。
「なんや、そんな興味無さそうに」
「そんなことないですけど」
そう言って、手元のお酒を口に入れる。炭酸故の刺激が喉を通った。
どうやら彼女は最近、お気に入りの子を見つけたらしい。その子はとても楽しそうにバトルをし、かつ、とても強いらしい。
私も以前その子のバトルを見てきた。彼女が気に入るのはどんな子か気になったのだ。結果からいうと衝撃を受けた。私は基本的にバトルが苦手だが、その子のするバトルはとてもワクワクした。楽しそうに戦う彼女から目が離せなかった。
だから……彼女が気に入るのも分かった。
「だって、私もあの子のバトルを見てきましたから。とても面白いですよね。あの子」
「…はぁ!?」
少しの間を置いて、彼女が大きい声を上げた。うるさいですよ、と注意をすれば大人しく席に座り直したが、顔は顰めたままだ。
「あのバトル嫌いなあんたが!?バトルを見て面白いと思ったんか!?」
「嫌いだなんて。苦手なだけです」
「同じやろ」
「違います」
彼女ははぁ〜と大きいため息をつくと机に突っ伏してぶつぶつを何かを言い始めた。
これは酔ってると確信し、私は店員さんにお冷を頼んだ。
「うちのバトル見ても、何も感じなかった癖に……」
彼女がこちらを恨めしそうな目で見ていることには気づかなかった。
【お気に入り】
『旅立ちの目的は』
「ボクは、ダメだった」
目の前にいる彼はそうポツリと呟く。何時もの堂々とした姿はどこにもなく、ただ、小さい頭がそこにあった。
「誰も傷つかない、理想の世界を創りたいだなんて大事言っておいて、あの男に操られていただけだなんて……。本当にバカだったよ」
ハハと乾いた笑いが短く部屋に響いた。彼の足元にいる子が心配そうに彼を見上げ、くぅんと小さく鳴く。
私は彼の名を呼んだ。彼の瞳が私に向けられる。
「私はそうは思いません」
彼の方へ歩み寄り、手を握った。彼の手は冷たかった。
「貴方様がこの世界を良くしようと、誰よりも努力していたことを私は知っています。貴方様がバカなど、絶対に有り得ません。全ては騙していたあいつが悪いのです」
「…元はと言え雇い主だった人をあいつ呼ばわり?」
「えぇ、私はあいつがずっと嫌いでしたから」
「ふふ、なにそれ」
彼が笑ってくれたことに安堵し、名前を呼び更に話を続ける。
「私と旅に出ましょう。世界は広いです。私たちが知らないことがまだまだ沢山ある。それを知ってから、世界を創るのも悪くないでしょう?」
彼は少し考えるように目を閉じた後、うんと頷いた。
「そうだね、キミと一緒の旅なら得られるものが沢山ありそうだ」
そう何時もの笑みを浮かべる彼を見て、私もふふと笑った。
あぁ、やっと私が好きな貴方が戻ってきてくれた。
【誰よりも】
『未来からの警告』
「おーい、手紙が届いてたよー」
「…私に?」
はい、と手渡された封筒は真っ白で差出人も何も書かれていない。唯一書かれているのは、私の名前だけ。
彼女はその封筒を見て、眉をひそめた。
「…もしかして、危ない感じ?捨てとこうか?」
「ううん、大丈夫。とりあえず見てみるよ」
念の為、カッターで封を開ける。慎重に中の手紙を取り出し、内容を読んだ。
「……ど?大丈夫っぽい?」
「…うん、何の変哲もない手紙だったよ。」
それを伝えると彼女は安心したように大きく息を吐いた。
「良かったー!ね、どんな手紙!?」
「未来の私から届いた手紙…なんてね」
「えーなにそれー!」
カランカランと音を立てて扉が開いた。どうやら彼らが来たようだ。こんにちはーと明るい声が聞こえた。
「お!来たねー!」
彼女がパタパタと駆け寄り、彼らを迎える。
私は手元にある手紙をもう一度見た。彼女に嘘はついていない。これは確かに未来の私からの手紙だ。……だが、未来で何かがあったようだ。未来の私からの警告。最悪な未来を変えろということか……。
笑顔で話す彼女を見て、私は決意を固くした。
"命にかえても彼女を守れ"
【10年後の私から届いた手紙】