星は綺麗だ
どれだけの時間が経っても、夜になるとまたそこに現れる。そして輝いている。
もしも星になれたら――
そう願ったことのある人もいるだろう。
しかし星になれたとして、その星は本当に輝くのだろうか。色や明るさは違えど、星は無数に存在する。
その中のひとつになったところで、誰かの記憶に残ることはあるのだろうか。
見上げた時にただの光る点になってしまわないだろうか。
それなら僕は星にならなくていい――
星になるより流れ星になりたい
流れ星は一瞬だ。流れたと気づいた頃には、すぐに夜空へ消えてしまう。
一瞬かもしれない。
それでも流れ星には、願いを込める人がたくさんいるはずだ。
一瞬で消えてしまうからこそ、
誰かに託され、託していかなければならない。
それは命も、きっと同じはずだ。
誰かの願いを託されるそんな存在になってみたい。
誰の目にも止まらないかもしれない。
それでもいい。
いつか誰かの役に立てるのなら。
「星になる」
チリンチリン♪
厨房から聞こえる小さなベルの音。
私はカフェが好きだ。
週末はよくSNSや雑誌で紹介されているカフェを探しては、カフェ巡りをしている。
今日は町外れにある小さなカフェに足を運んだ。
お店の名前は、「カフェ やすらぎの森」
この店は1階が厨房とレジ、2階が客席となっている。
店は小高い丘に位置しており、後ろには大きな森が広がっている。
木造りの構造に煙突までついていて、まさに森の小さなカフェだ。
レジや厨房のカウンターには、木彫りのフクロウやタヌキの置物が置いてあり、これがまた味を出している。
今日はミルクティーとモンブランのケーキセットを注文した。
このカフェの人気No.1らしい。
この店では料理が出来上がると、厨房からベルが鳴る。
そして店員さんが2階の客席まで運んでくれる仕組みになっているそうだ。
ベルが鳴るたびに、今か今かと胸が躍る。
客席には暖炉と全面ガラスの窓があり、窓からは山と平野が見渡せる。
暖炉の心地よい熱と、木造りの香りがふんわりと私を包み込む。この雰囲気がたまらなく好きだ。
チリンチリン♪
またベルが鳴る。
階段を上る足音が聞こえる。
目の前にミルクティーとモンブランがそっと置かれた。
「遠い鐘の音」
深夜0時19分。
1冊の小説を読み終え、ホッと息をつく。
あったかくて、切なくて、勇気をもらえる物語だった。
世の中にもこんな人がいる。
こんな素敵な人がいる。
そう思うと、また頑張ろうと思えてくる。
昔から小説を読み終えると、よくこういう気持ちになる。
いわゆる「余韻」というやつだ。
たとえそれが小説の中の架空の人物であったとしても――
こういう人になってみたい。
こんな風に振る舞ってみたい。
こんな風に笑ってみたい。
憧れは、私にとって生きる原動力だ。
映画やドラマでもよく感情移入をしてしまい、そのたびにどこからかやる気が湧いてくる。
今日も頑張ろうと思える。
もしかしたら私は、単純な人間なのかもしれない。
小説1冊で、ひとりで幼い子どもみたいにはしゃいでしまうのだから。
この気持ちを大事にしたい。
自然と笑みがこぼれ、ほかほかした気持ちを小説と一緒にそっと抱きしめる。
あったかい。
私よりも遥かに小さいはずのその本は、温かいもこもこのクッションのように感じた。
また素敵な1冊に出会えた。
忘れない1冊。
忘れたくない1冊。
いつか誰かにおすすめを聞かれたら、この小説を選ぼう。
期待と楽しみを胸に、またひとつ「ぬくもりの記憶」が増えた瞬間だった。
「ぬくもりの記憶」
これは、とある少年の話である。
まだ駆け出しの僕は、右も左もわからず、がむしゃらに生きていた。
その頃は、目の前のことをこなすので精一杯で、今みたいに先のことなんて考える余裕はなかった。
来る日も来る日も努力を重ねていた。
ストレスのせいか、食べ物が喉を通らず、戻してしまうこともあったのを覚えている。
そこまでして目指したいものがあった――と言えばそうなのだが、今思えば、あの頃の僕は自分自身の姿がまったく見えていなかった。
まるで色のない真っ白な雪原に、ひとり野放しにされたみたいだった。
歩いても歩いても景色は変わらない。
後ろを振り返れば、かろうじて足跡だけが残っている。
しかしその足跡を消し去るように、上から静かに雪が降り積もる。
積み重ねてきたはずの軌跡は、すぐに消えていきそうだった。
それでも僕は、前に進むしかなかった。
いつかこの努力が報われると信じて。
受験生だった頃の気持ちを思い出しながら書いてみました。
報われるかどうかなんてわからない。
それが「努力」なんだと思います。
でも、その努力はきっとどこかで自分を支えてくれる。
そんな気がしています。
もし歩きづらくなったら、一度だけ立ち止まって、
「自分はどこへ向かっていたんだっけ。」とそっと考えてみるのもいいのかもしれません。
それだけで、また少し前を向ける気がします。
「雪原の先へ」
23時42分。
溜まっていたレポート課題を終え、大きく伸びをした。ずっと同じ姿勢で作業していたせいか、背中のあたりがじんわりと疲れている。最近は中々やる気が出ず、提出日ギリギリになってしまいがちだ。そろそろ寝る時間だったが、明日は2限からということもあり、甘いミルクティーを入れて自分にご褒美をあげることにした。
スティックを開け、愛用のマグカップに粉を入れる。お湯を注ぐと、とぽ、とぽという音と一緒に、まろやかで甘い香りがふわっと広がった。スプーンでそっとかき混ぜる。まだ熱くて飲めそうにないので、飲めるくらいになるまでベランダに出て外を眺めることにした。
私はいつも、悩みがあったり気分転換したかったりするとき、自然とベランダに出てしまう。ふわふわの手袋をして、分厚い靴下にスリッパを履き、ブランケットを羽織った。窓を開けると、ひんやりした空気がふわっと肌に触れた。12月の夜の冷たさだ。
まだ熱いマグカップを両手で包む。風一つない静かな夜とミルクティーの優しい香りが私を包む。ほっとした気持ちと共に夜空を見上げてみた。今日は一日快晴だったこともあり、月は明るく、星もいつもよりはっきり見えた。マグカップの熱気と厚着のおかげか、この寒さもどこか心地よい。
冷めてきたミルクティーをひと口飲み、ふぅっと息を吐く。白い吐息はすぐに夜空へ紛れた。
私はこの時間が好きだ。ぼーっと外を眺めていると、自分の中に溜まっていたものがすぅっと出ていくような気がする。冬の夜は寒いけれど、私にとってこの時間は、大切なひとりのご褒美みたいなものだ。
気づけば、マグカップの湯気はもう消えていた。さすがに冬の外に長くいたせいか、体も少し冷えてきた。
そろそろ部屋に戻ろう。
今日も長い一日だった。
「お疲れ様、私。」そう小さくつぶやいて、静かに窓を閉めた。
「白い吐息」