ぽんまんじゅう

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12/8/2025, 11:03:21 PM

〈雪原の先へ〉


 あたり一面に広がる真っ白な世界。その先に何があるのか、雪国で生まれ育ったその少女には想像もつかない。
 雪原の代わりに御伽話に出てくるような花畑があるのだろうか。そこは太陽が一年中明るくて、こんなに分厚い服を着なくても温かいのだろうか。もしそんな世界が本当にあるのなら行ってみたい。
 でも、大人達は絶対に外に出てはならないと言う。村にいれば安全だから、外のことなんか考えなくても良いと信じている。理由は教えて貰えなかった。
 彼女は紙飛行機を折った。そして何もない雪原に向かって飛ばした。それが自分の代わりに世界を見てくれることを祈って。
 少女の願いが乗せられた小さな紙飛行機は、強い吹雪に揺られながら、雪原の先へと飛んでいった。

12/5/2025, 9:44:32 AM

〈秘密の手紙〉【途中】


 大人達は皆、森には悪い鬼が住んでいると言う。彼らは森に迷い込んだ子供を攫って食べてしまうから、もし鬼に会ったらすぐに逃げろ、と。だが私以外の村人達が信じているこの言い伝えは正しい情報ではない。鬼は私達と同じようにただ平和に生きているだけで、人間の子供に危害を加えたりはしない。

 初めて大人達と森に行った時、私は迷子になった。大人の人数に対する子供の数が多すぎるこの村では迷子は珍しくはないことだ。夜になっても森の終わりを見つけられず、冬の寒さに震えながら泣いていた時、1人の少女に出会った。風変わりな服を着た彼女の頭には二つの小さな角がちょこんと乗っかっている。鬼は恐ろしいと聞いていたが彼女は優しく、鬼の洞窟まで連れて行ってくれた。洞窟の鬼達も親切で、私を食べるどころかパンのようなお菓子をくれ、温かい毛布まで用意してくれた。助けてくれた鬼の少女とは会話も弾み、私たちはたちまち友達になった。
 「ねえ、私達もう会えないのかな?」
翌日、少女が村まで連れて行ってくれている時、私は呟いた。
「うーん。人間は私達のことを勘違いしてるみたいだし、難しいかな。」
「そうか…。もっと話したかったのにな。」
私たちは黙ったまま森の中を歩いた。あちらこちらの枝から村でもよく見る鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「あ、良いこと思いついた。私達、手紙交換しない?」
数分後彼女が目を輝かせながら提案した。
「それ、凄くいいね!でも、どうやって?」
彼女はいたずらっぽく笑った。
「明日早速送ってみるから、楽しみにしてて」
 翌日、家を出ると1羽の鳥が飛んできて、目の前の壁に停まった。嘴に葉っぱのようなものを咥えている。それは彼女からの手紙だった。あまりに嬉しくて何度も何度も読み返した。私は部屋にかけ戻り、急いで返事を書いて鳥に渡すと、それを咥えて森の方へ飛んでいった。
 こうして私達の手紙交換が始まった。大人達に鬼と関係があることがバレたらいけないので、私は隠し続けた。だから2人だけの秘密の手紙は5年もの間バレることはなかった。
 だがある日、鬼狩りが始まった。1人の鬼が村に出てきたので、村人が襲われる前に殺そう、ということだった。遂には誰かが鬼を匿っている、という噂まで流れだし、以前から鬼の伝説の研究をしていた私は疑われてしまった。
「鬼狩りが始まりました。そちらにも武器を持った村人達が行くかもしれません。なんとか逃げてください。誰かにバレたらいけないのでもう手紙交換も終わりにしましょう。さようなら。」
私は最後の手紙を鳥に渡した。そして、秘密を突き通すため、今まで彼女がくれた手紙を火に投げ込んだ。

11/20/2025, 11:18:49 PM

〈見えない未来へ〉


 科学技術が著しく発展し、人類は誰でも未来が見えるようになった。人々は皆数十年も先を予知し、都合の良い未来に従って生きた。必要が無い天気予報は消え、予知されては意味がないのでテストも無くなった。受験や就職の面接も未来予知でで判断される。その為人々は次第に努力しなくなり、未来の為に必要最低限のことしか行動しなくなった。
 それでも世界は上手く回った。誰も不満を感じず、未来が見えなかった時代のことは忘れ去られた。
 だがある日、全世界の人々の未来予知能力を管理している機械が突然壊れた。人々はパニックになった。科学者達は急いで直そうとしたが元通りにはなりそうも無い。人々は見えない未来に不安を感じ、一歩も外に出ない者も数多く現れた。
 政府が、数十年は機械は直らないだろう、と発表した。人々は能力が戻るのを待つのを諦め、未来が見えない状態でも何とか生活する方法を探し始めた。学者達は能力か無かった過去の記録を読み返して良い方法を探し、学校ではそれらの発見されたことが教えられるようになった。
 数年後、未だに未来は見えなかったが人々はその生活を楽しみ始めた。何が起こるのか分からなくて毎日が刺激的だ。以前は結末が分かって面白く無かった過去の本や映画にもワクワクした。
 
 未来が見えないこの時代を生きる私達は、誰しも一度は「未来が見えたら良いのに」と思うだろう。でも、何が起こるのか分からない方が案外楽しいのかもしれない。




(テスト前なので雑になってしまいました。またいつか機会があれば書き直したいです。)

11/18/2025, 11:02:09 PM

〈記憶のランタン〉


 村の外れ、普段なら誰も立ち入らない古い教会に一人の男が忍び込んだ。当然良い目的のためでは無い。彼は盗人だった。目的の物はすぐに見つかった。繊細な模様が彫られている、美しいランタン。由来は分からないが「記憶のランタン」と呼ばれるそれは、何十年も使われていないにも関わらず明るく輝いていた。その光は懐かしい家族との思い出のようなやさしさがある。このランタンは何があっても光続け、持ち主を幸運へと導いてくれるらしい。盗人はそれを持って貴族の家へと向かった。ランタンの力を使ってさらなる財宝を得る為に。
 盗みは全てうまくいった。ランタンの魔法は本物だったらしい。彼は最初は喜んだ。宝石を売って贅沢な暮らしを楽しんだ。だが、何故だかだんだん心が空っぽになっていくように感じた。盗人になる前にあったはずの、家族との幸せな記憶が消えていっていたのだ。
 遂に彼は何も感じなくなった。幸せとは何なのか、何の為に生きているのか、何も分からない。もう生きる意味も見出せない。胸の中にあるのは思い出したくも無いような不幸な思い出だけだ。
 星一つ見えない嵐の夜、暖かく輝くランタンを片手に彼は力無く高い橋の上へ登り、荒れた海へと飛び込んだ。もがく彼の手を離れ、ランタンはゆらゆらと海を漂った。
 人の幸福を吸い取り、その輝きを発し続ける「記憶のランタン」。それは新たな燃料となる持ち主を求めて、陸へと近づいて行った。

11/18/2025, 9:13:50 AM

〈冬へ〉


 寒い風がゴウゴウと吹き荒れる真っ白な世界の中を一人の少年が歩いていた。精々小さな水筒とサンドイッチぐらいしか入らなさそうな鞄を背負い、薄い半袖を着ている。というのも彼はこんな寒いところに来るつもりでは無かったからだ。この辺りに住む男の子の間で流行っている「森の冒険ごっこ」の途中で道に迷ってしまったのだ。熱帯に位置する彼の国には「冬」など存在しない。だから森を抜けた先にこんな場所があるなんて、彼は予想していなかった。勿論すぐに引き返そうとしたが、吹雪のせいで前も後ろも分からなかった。
 「どうしてこんな所にいるの?」
真っ白な世界から突然少女が現れた。美しい真っ白な髪を靡かせて、震えることも無く真っ直ぐ立っている。年齢は少年よりもほんの少し上のように見えた。少年は答えようとしたが歯がカチカチと鳴るばかりで声は出なかった。
「このままじゃ死んでしまうわ。着いてきて。」
少女は自分の暖かそうなコートを少年に着せた。そのおかげで彼の気分は随分良くなった。少し歩き小さな小屋にたどり着いた。その中はかなり暖かかった。
「君は誰?」
「私は雪女。私が居たら辺りが全部冬になってしまうの。だから村から追い出されてここで一人で暮らしてる。」
「寂しくないの?」
「別に。もう慣れたから。」
そう言う彼女の美しい顔には悲しみの色が浮かんでいた。少年は何か言おうとしたが、どんな言葉も彼女を慰められないような気がした。
「貴方ももう帰るべきよ。私のことなんか忘れて、また夏を楽しみなさい。」
彼が「もっとここにいたい」と言う前にこれまでよりも更に強い風が吹き抜け、彼は魔法のように飛ばされた。気がつくと迷子になった森の中にいた。
 「冬」や「雪女」について知らなかった彼は図書館の本を読み漁った。海を超えた北の国には「冬」があり、あの時のように真っ白な世界になること、そこには彼女のような「雪女」も数人いるということが分かった。そしてもう一つ、衝撃的な事実も知った。
 少年は大人になり、様々な生きる術を身につけた。遂に時は来た、と彼は確信した。今度は分厚い毛の服と大きな鞄を背負い、家を出た。彼が一度迷子になってから以降立ち入り禁止になっていた森を抜けて、少女の元へと向かった。
 真っ白な世界の中にあの時の小屋を見つけた。彼は思わず笑顔になり、冷たい風が刃のように吹きつけるのも構わずに走りぬけた。
 小屋の中にあの時の少女がいた。彼女も彼のように大人になり、ますます美しくなっていた。
「遅くなってごめん。ずっと会いたかったんだ。」
彼女は驚きを隠せていないようだ。
「どうして?一回会っただけの全くの他人なのに。」
「いや、他人じゃ無いんだ。僕は君の弟だ。」
「え?どういうこと?」
「詳しい話はこれからするから、早くここを出よう。一緒に北に向かおう。」
「そこには何があるの?」
「冬だよ。」
彼の手を取り、彼女は駆け出した。
 彼女が近づくたびに凍る海を超えて、姉弟は冬へと走って行った。

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