手のひらの贈り物
子供のころ、公園で探し物をしていた。
四つ葉のクローバーを探していたけれど、全然見つからない。
落ち込んで地面を眺めていると、知らないお兄さんが声をかけてきた。
「あの…あ、ごめんね急に。もしかして、四つ葉のクローバー探してる?」
警戒しながらも、うんと頷く。
「実は、僕がさっきここの四つ葉のクローバー見つけちゃったんだ。だから、君にあげるね。」
お兄さんの手には何も無かったはずなのに、私の目の前に手を差し出した瞬間、手のひらから四つ葉のクローバーがポンと飛び出した。
私は驚いたけれど、嬉しくてそのクローバーを受け取った。
「すごい!すごい!すごい!お兄ちゃんありがとう。…お兄ちゃん、魔法つかい?」
無邪気にそう言うと、お兄さんは私の頭を軽くポンと撫でて、人差し指を口の前に当てた。
「内緒ね。」
そして、それが私の初恋だった。
心の片隅で
頭の中には記憶を貯めておく抽斗がある。
ただ、頭の中の抽斗はあくまで知識や知恵をしまっておくものだ。
感情や気分の記憶を貯蓄しておく所は他にある。
それが心の片隅にある抽斗だ。
『あの時、あんな事をして辛かったな。』
『あの時はこんなに楽しかった。』
『あの時のあれは嬉しかったな。』
『あの時は凄く悔しかった。』
心の片隅には、これまでのありとあらゆる思い出がしまってある。
だから、心を大切にしよう。
雪の静寂
人々が寒さを避けて家の中に入った時、私は外へ出る。
見渡す限り誰もいない。
異様な程に静まり返り、まるで人間が一人もいなくなった地球にポツンとひとりだけ残されたような感覚に陥る。
雪がもたらした静寂。
この光景をみる度思う、地球は1個の生命体のようだと。
私たち人間なんて、地球にとって細胞か微生物くらいにしかならない。
それほどちっぽけな存在でしかない。
雪や寒さを敬遠するのも人間のただのエゴでしかないのだ。
雪の静寂の中、私は地球の息吹を聞く。
君が見た夢
ある日突然、君は僕に話しかけるようになった。
僕は影が薄くて友達もいないような人間で、君とはなんの接点もなかったのに。
ある日「どうして僕に話しかけてくれるの?」と聞くと君は、
「夢で見たの。」と一言だけ言った。
「どんな夢?」と聞いても君は教えてくれなかった。
それから時は経って、僕も君も大人になった。
僕と君の左手には同じ指輪が光っている。
また君に聞いてみた。
「学生の頃、僕に話しかけるきっかけになった夢は結局、どんな夢だったの?」
君は少し考えてから口を開いた。
「実は言ってなかったんだけど、私、小さい頃から予知夢を見るの。今まで見た夢は必ず現実になっていた。あの時、見たのは私があなたのお嫁さんになる夢。」
そう言って笑うと、君は僕の手をぎゅっと握った。
明日への光
学校の帰り道。友達と肩を並べて歩いていた。
「あれ見てみ。あれ、なんて言うと思う?」
友達は夕日に向かって指をさしていた。
「は?夕日ぐらいわかるわ。どんだけバカにすんだよ。」
バカバカしい質問に半笑いで応え、友達のことをげしげしと軽く蹴り苛立ちをぶつけた。
「ぶっぶ〜。」
「は?」
「正解は…明日への光。」
そう言ったドヤ顔がヤケに鼻についてまた足蹴にした。
それから何年も経った今、夕日を思い出すとふとその時のことを思い出す。
「明日への光。」 イマイチ意味はよくわからなかったけれど、良い言葉だなと夕日を見ながら微笑んだ。