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9/3/2025, 3:16:54 PM


ずっとずっと、好きだった。
高校生の頃からずっと、貴方だけをみていた。恋をすると、不思議と目が彼を追って一瞬でさえ見逃したくなくて。笑う顔、楽しそうな顔、ちょっと不満そうな顔。どれも見るたびに心がドキドキと高鳴り、ずっとずっと彼との時間が続けばいいなと、彼の中の一人の友人として、密かな恋心を描いていた。

独り占めしたい気持ちはあれど、その気持ちを伝える気はない。カッコよくて、面白くて、何でも出来ちゃう彼の隣は、私じゃない。可愛くないし、面白い話も出来ない不器用な女の私が彼に相応しいわけがない。
彼が話しかけてくれる度、相手をしてくれて嬉しい気持ち反面、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。もし今、私が学生なら相手をしてくれた分だけ彼に投げ銭したい気持ちになる。

そんなこんなな片想いを引きずったまま、彼の仲良しのグループの一味として大人になった今も交流がある。
定期的に集まって飲み会をしていたのに、仲良しグループのメンバーはどうやら世渡り上手な人間が多かったみたいで次々と結婚だ、妊娠だと飲み会に不参加する者が増え、ついには私と彼だけが残ってしまった。

「みんな、来なくなっちゃった、ね」
「だね」

居酒屋、二人だけの飲み会に焦りを隠せない。
二人席に向かい合って座るが、正面の彼の顔がかっこよすぎて直視出来ない。何年経ってもかっこよくて、年々カッコ良さが増している。
なぜ彼が残るんだ。なんならグループ一のイケメンだぞ、女ども何処に目をつけてるんだ!!
と思いながらも、彼が結婚していない事にほっとしている。多分、受け入れられずに泣き散らすだろう。

「でも私一人じゃないからまだほっとした」
「俺も。お前が居てくれて良かったよ」
「ていうか、彼女居ないの?モテそうなのに」
「うん、モテるよ」
「随分と堂々と言うね」
「俺が居なくなったら寂しいでしょ?」
「それは……」

だって彼の隣にも、いつか誰かがやってくる。その時は、もしかしたらすぐそこかもしれない。
寂しくないと嘘をつきたいけど、友達からそんな事を言われるのも傷つくかなと節目がちに言葉を濁す。だが言葉を考える間もなく、グラスを持っていた指に彼の指が触れた。

「だからさ、そろそろ正直になって欲しいなって」
「正直……?」
「うん。ずっと俺もお前のこと見てたから分かるよ。だから一歩踏み出してくれたら、その先は俺が言う」

ひみつの恋はバレていたみたい。指先から伝わる熱がやけに暑い。それでも、その熱がたまらなく嬉しくて声を漏らす。

「さみ、しい」

その先にある彼の想いがほしいから。



8/31/2025, 2:21:04 PM

暑い夏真っ盛り、陽が傾いても太陽の暑さが引くことはない。歩き過ぎてヒールを履いている足が痛いし、日曜特有の人混みの中を歩くのは億劫になる。
あまりの暑さに仕事を終えたその足で近くのカフェへ向かった。二人掛けの席に案内されて、アイスコーヒーとケーキを頼み、仕事終わりに糖分摂取して疲れを癒すことに。

ふと、通路を挟んだ向かい側の四人掛けの席に座っている男子四人組に目が行く。高校生くらいだろうか、日に焼けた肌に幼さを感じた。
そうか、学生は今夏休みなんだっけ。だけど今日は8月31日、夏休み最後の日だ。

店内の壁にある時計を見ると只今午後5時。もう半日も残っていない夏休みを堪能しているのだろう。
だが向かい側から声が聞こえてきた声に、焦りの色が感じられた。

「シュン、現代終わったよ。古典の宿題は?終わってるか?」
「あぁ、それは終わらせてある。あ、ナオキの漢文の宿題まだって言ってなかった?」
「あ、まだ。マジすまん頼む!こっちは数IIならこのあとやれる。あータカヒロ、歴史頼んでもいいか?」
「おっけー、みんなの読書感想文終わらせてからやるわ。ユウジ、消しゴム借りるな」

おい、あんたら夏休みの宿題終わってないんかい。
聞く感じ、得意分野の科目に分かれてやっているらしい。全く、こういうのは自分でやらなきゃ意味ないよ。なんてお節介な事を思い浮かべながら、自分の夏休みを思い出す。

あ、そういえば私、夏休みの宿題やらずに提出もしなかったんだっけ。ここにいる高校生よりもクズな事やってた。
あの頃、途方もない未来の事なんて分からなくてただ茫然と毎日が過ぎていった。だけど確かに未来へのカケラを集めて、私は今ここにいる。

宿題なんてしなくても仕事にはつけたよ。
なんて思いながらも、今の歳になるとやっぱり勉強ちゃんとやっておけば良かったって思う日の方が多い。

頑張れ少年たち、まだ見ぬ明日へと。


/8月31日、午後5時

8/30/2025, 5:48:54 PM


好きな人は優しい。私にも、友達にも、知らない人にも。優しいあまりに、ライバルは多い。だけど、彼は告白してきた相手が悲しまないように告白を断る。最後まで優しい彼が私は好きだ。それ故に、自分も彼にとっては特別な存在じゃないんだと思っている。

ただ同じ学校の、同じクラスで。たまたま隣の席の女の子。
隣の席に座っていても、会話はクラスメイト達と同じくらい。頑張って話そうとしても彼の好きなモノが知りたくて、質問責めしてしまったことがある。
こんなの好きって言ってるようなものだ。だけど、彼は私の気持ち等知らずに、善意で全て答えてくれた。自分自身、何を聞いてるんだってキモすぎて恥ずかしくなったのに、それさえ包み込む彼の善意には脈なし過ぎて流石に傷ついたけど。

ここまできたらキモくてもダサくてもいいから、地べた這いずり回ってでも、彼を振り向かせたい。
来週末、少し遅れた花火大会がある。この花火大会は、好きな人と見ればずっと一緒にいれるというジンクスが有名で、この地域で知らない人は居ないだろう。
残念なことにクラスの男子と彼は一緒に行く約束をしていたし、私も女友達と行く約束をした。だけど、その花火を見る時だけでいい、彼とがいい。

ホームルームが終わり、日直だった私達は教室に残り後片付けを進めた。最後まで丁寧に終わらせる彼の姿に胸を高鳴らせ、思わず彼の名前を呼んだ。


「ん?どうした?」

優しい笑顔で私を見る、その表情が好きだ。

「あのね、今度花火大会あるでしょ?その時さ……一緒に、花火見てくれない、かな」
「あぁ、花火大会には行くけど友達と行くんだ」
「し、知ってる。私も友達と行く予定なんだけど、さ」
「そうなんだ。そうだ、みんなで一緒に行かない?そしたら一緒に見れるしさ」

そして、その優しさも。
だけど私は優しくはない。その優しさを踏み躙っても貴方を奪いたいんだ。

「違うの、一緒にみたいの。ふたりで。……意味、分かる?」

彼の手にそっと手を添えて訪ねる。
ここで断られれば、脈はない。でも、それで簡単に諦めてたまるか。
強気で言っても、心臓はバクバクうるさい。ついでに顔も恥ずかしくて熱くなる。なのに一向に返事が返ってこないから顔を上げると、彼は真っ赤な顔をしていた。

「え、あ、っと……はい。ぜひ」

これは脈アリかもしれない。


/ふたり

8/30/2025, 12:48:59 AM


疲れた、全て疲れた。人の顔色を伺うのも、自分の意思ではない嘘の言葉を吐き続けるのも。 

灰色の景色に砂漠のような道を歩き続ける毎日が嫌になった。
もっと自由で、もっと色鮮やかな世界が見たい。
何もかも、ゼロにしようと思った。
誰も私を必要としていない、私が何処に行ったって、噂も七十五日を待たずして記憶から消えて行くだろう。

みんなだってそう。貴方は半年前の事件を覚えてますか?と問いかければ、そんな事もあったね。と思い出しては、問いかけられない限り消えてゆくのだ。

職場の机に辞表を入れて、携帯を解約した。
キャリーバッグに荷物を入れて、電車に乗った。私が望む心の中の風景が見つかる場所まで行こう。

鈍行列車から見える街並みは、大きなビルの建物が連なる景色から徐々に田畑に囲まれた集落の景色へ変わってゆく。
人の住む気配のない山々のトンネルを潜り、一面海原の景色が広がる駅で降り立つ。

何もない、だけど私の知らない何かがある。
色鮮やかに輝く空の色に、心が満たされたように涙が頬を伝った。


/心の中の風景

8/27/2025, 2:48:42 PM

「ねー、それ取って!」
「もう。自分で取ってよね」
「あーっ!今日あれ持っていくんだった!」
「そう思って用意しておきました」
「うわー!ママありがとう!」

 わたしのママはエスパーだ。
 多分、パパの心が読めるんだと思う。パパがあれ、とかそれ、とか、その言葉だけで何かが分かる。
 パパだけじゃない、私だってクセが移っちゃって「ねぇママ、あれどこに置いたっけ〜?」って言っちゃったのに「いつもの引き出しに仕舞っといたわよ」と、引き出しを開ければ、綺麗に収納されていた。パパ譲りの言葉足らずの遺伝子は受け継いでも、ママ譲りのエスパー能力は無理だったらしい。なんでそっちじゃないんだっ。
 もし私がママだったら、パパのアレソレにイライラして怒っちゃいそうなのに、ママはいつもおかしそうに笑うだけ。私もそんな余裕が欲しいなぁ。

「あーあ、私もママみたいになりたい」
「突然どうしたの。早く行かないと遅刻するよ」
「はぁい。ねーママ……なんでそんなに優しいの?パパのアレソレとかさーイライラとかしちゃわないの?」

 私の言葉にぽかんとしたママは穏やかそうな表情で私を見た。

「だって二人とも、毎日お外で頑張ってるでしょ。だからママも二人が家でイライラしちゃわないように、家のこと頑張ろうと思って。ここにある毎日が、ママの中で一番の幸せだから」
「うーん……よくわかんないけど、ありがとう?」
「ふふ、それでいいの。ほら、早く行かないと」
「いってきまーす」
 
 言ってることはよく分からないけどーーママが優しいのは私とパパが一生懸命頑張ってるかららしいから、今日も一日頑張ろうっと。

/ここにある

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