『10年後の私から届いた手紙』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「裏山での約束を忘れないように tjps」
気がつくとポストに入っていた手紙にはただそれだけが書かれていた。
大学卒業を卒業し、就職を目の間に控えた春休みの朝、不思議なそれを片手に俺は首を傾げた。
ただのいたずらかと思ったが、何かが引っかかる気がする。
「特に予定も無いし行ってみるか」
誰に聞かせるでもなくそうつぶやくと俺は出かける支度を始めるのだった。大学生でも社会人でもない。そんな中途半端な日々を持て余していたのだった。
裏山と言われて思い当たるのはただ一箇所だった。通っていた小学校の裏にちょっとした小山があり、よく小学生の遊び場になっていたのだ。
「変わらないな」
電車で30分。中途半端な距離にあるそこにたどり着いて初めに出た感想がそれだった。
小学校も春休みなのか校庭ではまばらに遊んでいる小学生が居るだけだった。
自分もよく放課後など遊んでいたものだと懐かしい気持ちになりながら、裏山への道へと向かう。
自分はいつも仲のよい友達とよく学校の横の小道を通って山の方へと向かっていたのだった。
うろ覚えのつもりだったが歩いて見ると色々と思い出すようであまり迷うこともなく小山の山頂までたどり着いた。小学生の頃は広い遊び場のつもりだった山も改めて登ると30分足らずで頂上まで着いてしまい。時間の流れを感じてしまう。
頂上にはちょっとした広場といくつかのベンチが備え付けてあり、ベンチに寝そべっている人が1人いる以外、平日なこともあり閑散としていた。
「懐かしいな」
広場から辺りを見回すと広場の隅に大きめの岩が有るのが目に止まった。
「そういえば昔、ここで…」
何か記憶が引っかかり近くへと寄って行った所で、不意に後ろから声がかかった。
「その岩はもう少しで無くなってしまうらしいですよ」
声に驚いて振り返ると、そこには同年代に見える1人の女性がいた。
「綺麗に整備して公園のようにするみたいです」
そう言って指差す先には確かにそれらしき予定の書かれた掲示板があった。
「そうなんですね。昔、この辺りでよく遊んで居たので少し寂しく感じてしまいますね」
急に話しかけられたことに戸惑いながら、しかし本心でそう応えた。それと同時に目の前の女性に既視感を覚えて記憶を探る。
「私のこと、覚えてないです?」
不意にそう言って笑った女性の顔が急に、小学生の時に遊んでいた友人と重なったのはその直後だった。
「あっ」
「君は全然変わらないからすぐに分かったよ」
「逆にそっちは凄く変わったね。びっくりしたよ」
そこからはあっという間だった。
彼女の久しぶりだし別の場所でゆっくり話さないという言葉に誘われて山を下りた喫茶店で昔話に花を咲かせたのだった。
その女性が昔タイムカプセルを一緒に埋めた仲であの日が約束の日だったことを思い出したのは山頂がすっかり整備されて目印の岩が影も形もなくなったころだった。
10年後、すっかり忘れていたそんなことを思い出したのはとある広告がきっかけだった。
「過去へ手紙を送りませんか?」
Time jump post serviceなる怪しげな名前のその会社はしかし、最近話題のタイムマシン系のサービスの会社らしかった。自分自身にしか送れない。過去にも未来にも大きな影響を与えない内容しか送れない。無記名に限る。など複雑な条件が並ぶかわりに非常に安価なそのサービスは、一つの心残りを思い出させるのには十分だった。1人の人がタイムカプセルを開けられるかどうかが大きな影響になるわけがないだろう。そう思い立ってメッセージを送ることを決めたのだ。
「しかし、どうしてあの時教えてくれなかったのさ」
「私も忘れてたんだよ」
そう言って笑う彼女の顔は小学生の時から変わらない。そんな雑談をしながら2人で過去へのメッセージを送るのだった。
「絶対に先手を取ること tjps」
【10年後の私から届いた手紙】
たくさんあった荷物をどんどん運び出し
空っぽになった部屋を眺めている時
いつの間にか床に落ちていた封筒が目についた
最近買ったばかりのレターセットと同じ柄
(忘れ物はきちんと確認したはずなんだけど…)
と思いつつ拾ってみると、
宛名も差出人も書かれていないそれには
どうやら中身があるらしい
よく考えると、自分のものはそもそも未開封だ
無駄にある記憶力を探らなくたって、
手紙なんて何年も貰っていない
ふと思い立って封筒を裏返した瞬間、
何も書かれていない、封すらされていないが
差出人が私自身であることを何故か確信した
きっと何年後かの自分からの手紙
果たしてこれを読むことは
未来の私にとって正解なのだろうか?
そんなことを考えながら
開いた先に答えがあるかと手紙を開く
"
10年前の私へ
"
書かれているのは希望か絶望か
それとも日常か
「10年後の私から届いた手紙」
ポストを開けると、見知らぬ茶色い封筒が入っていた。差出人の名前は私。誰かに手紙を送っていたかな、と考えるが思い当たらなかった。最近は手紙を出すということもほとんどない。
恐る恐る封を開けると、それは10年後の私が書いた手紙だった。
10年後にもまだ手紙の文化がちゃんと残ってるんだな、と思いながら、不安とワクワクでうるさく鳴る心臓に手を当て、そっと開いた。
『10年後の私から届いた手紙』 #42
ある日、いつものようにポストを見ていると、
中に一枚の手紙が入っていた。
「日下部彩音さんへ」⋯⋯って私!?
どうして私の名前の手紙が!?
そして私は、恐る恐る中身を見てみると⋯
「逃げて」の文字だけが書いてあった。
そしてその手紙を見て、振り返った途端⋯⋯。グサッ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あれ?夢見てたのかな?
さっきの気のせいだったんだ!良かった〜
今日もポスト見てみよ。えっ⋯⋯嘘でしょ⋯。「日下部彩音さんへ」
後ろを振り返ったら⋯。
『こんにちは。
元気にしていますか?
今頃あなたは、この世の終わりと思うくらいの経験をしていると思います。
大失恋です。
きっと今にも死にたくなっていることでしょう。
こんなこと今言われても、どうしょうもないと思います。
何を根拠にと思うと思います。
でも、「大丈夫」。
すぐに笑える日が来ます。
すぐにあなたの隣にあの人以上に大切な人が出来ます。
今は笑えなくてもいい。
ただ自棄にだけはならないでほしい。
きっと明るい未来があなたを待っているので。
こんなことを言われても信じないのがあなたの良いところですが、この手紙のことだけは信じてほしいです。
傷ついたあなたを見守ってくれる人はそばにいます。
もちろんここにも。
ではお元気で。
38歳の私より』
2/15『10年後の私から届いた手紙』
10年たちましたね
あいかわらずの日々ながら
負けるもあり
偽り友達付き合い
できません 変わってないかだな
やられたら やり返す強さは
いらない
そうしたこと変わりないは
いい感覚だよ
とりあえず 困難に悔しさなり
文句いっても きりはない
少しなり そうしたことに
10年前よりマシに軽 あしらえてる
成長していて
かなり
沢山楽しい してきてるままに
とりあえず また 10年後に
手紙送るよ
#10年後の私から届いた手紙
―拝啓 10年前の私へ
貴方は、【今】を全力で楽しめていますか??10年後の私は、今、物凄い幸せを日々噛み締めています。10年後の貴方には、愛する人との子供も、無事、生まれ、ペット達にも囲まれて、日々を楽しく生き、旦那さんとの関係も良好になっていますよ。10年前頃の私が出逢ったツインレイの浮気相手となった彼とも離れられて正解、そう心から思えて、ツインレイの統合も終わり、2人は、再会を果たしますが、お互い別の道を進んで行く決意を語ります。そして、貴方も貴方で、それにより、旦那さんとの関係が修復し、理想の夫婦になります。だから、今の貴方が正解だと思った道は、全て迷わずに突き進み続けて。きっと、間違いなんて一つも無いから。そして、貴方が迷わずに進める道。それこそが、まさに、未来の私に繋がるから。今の貴方のままで大丈夫。しっかり上手くやれてるよ。こっちの世界でも。だから、とにかく、自分を信じ続けて。10年後の貴方は、今よりももっと、沢山の資格を取得し、自信に満ち溢れた貴方に変わっているから―
拝啓、10年前の私へ
10年前の私へ、
お元気ですか、
この頃は風邪が流行っていましたね、
ちゃんと寝てちゃんとご飯を食べて健康にしていてください
そういえば雪がとても積もった年ですよね
雪で滑ってこけないで下さいね、
私は今は元気にしています
辛い日もあるけれど元気です
なんとか生きていますよ
あまり言うことはないけれど手紙を送らせて頂きました
だからずっと元気でいてね、
未来の私をちゃんと存在させてくれたら嬉しいです
しんどかったら横になってくださいね、
好きな人に振られたら好きなことして泣いてくださいね
誤って事故に遭わないでくださいね
死ぬ時は寿命がいいので、
ちゃんと10年後に手紙を送れるようにしてください
病気はごめんですよ
10年後の私より
題名:10年後の私から届いた手紙
「戻りましたーって…え?」
冷たい音を鳴らしながら、彼は扉を開いた。
そこは四つのデスクが収まる、こじんまりとした己の所属する課の居場所。
彼の視線の先には、部屋の隅っこでうずくまっていた、後輩が居た。
「走勧(そうか)っち、どうしたんすか?
そんな、ダンゴムシみたいに丸まって…」
「うぅ…順(じゅん)さん…私、呪われてるんでしょうか…それとも、恨みを買ってしまったんでしょうか…」
「俺らの仕事的に、呪われもするし、恨まれもするだろうけど…どうしたんっすか?」
怯えながら話した後輩は、デスクに置かれていた、一枚の紙を指差した。
順と呼ばれた男性は、折り畳まれた紙を開いた。
「………なんすかこれ」
「わからないですよぉぉぉ!10年後の私は今こうなんですって、よくわかんないこと書かれてるしぃーーー!」
「冗談にしても訳わかんないっすね。"正義のアルカナを受け継いだ"、"髪が長くなってツインテールになった"、"剣を自由自在に浮かせて飛ばせるようになった"、飛べるようになった"…」
室内に、沈黙が流れた。
時計の音だけが、カチカチと鳴り響く。
「え、しょぼ」
「悲しめば良いのかわからないです〜!」
「なんかもっとこう…偉い人になったとか…不老不死になったとか…"アルカナを受け継いだ"は凄いけど」
いたずらかなぁ、にしてはしょぼいなぁ。
と呟き、それをゴミ箱に捨てた。
お題『10年後の私から届いた手紙』
"10年後の私から届いた手紙"
見慣れた字読まずに食べて日常へ
予告なしでも立ってゆけるわ
10年後の俺から届いた手紙
もうちょっと真面目に勉強しやがれ馬鹿野郎。
最初の1行から恨み節とは、10年後の俺ってやつは相当苦労をしているらしい。まぁ今の俺に言ったところで仕方なくない?
そんなん聞いて真面目に勉強するわけなくない?
俺だよ???
全く10年経ってるのに俺への扱いがなっちゃいねぇな俺ってやつは。こんなん言われて素直に聞くような俺じゃないぜ。
加筆します
10年後の私から届いた手紙
「では、10年前にみなさんがみなさん宛に書いた手紙を返します」
中学校を卒業してから初めてのクラス会。中学校を卒業する前、10年後にクラス会を開催しよう。と担任の先生が決め、そのクラス会の目玉として、10年後の私へ。という手紙を書き、タイムカプセルに入れ、先生に預けていた。
「タイムカプセルを埋めて、場所がわからなくなると困るから」
と埋めずに先生が預かっていた手紙を返される。
「では、その私への手紙を読んで、次の10年後のクラス会用に、10年後の私から届いた手紙。を書いてください」
「10年後の私から届いた手紙…ですか?」
「そうです。10年前の私に向けて、手紙の返事を書いてください」
ああ、そういうことか。と納得し、まずは渡された手紙を読み始める。
「ふふっ、かわいいな」
10年前の私を懐かしく思い出しながら、上手くない文字を読み進めるのだった。
10年後の私から届いた手紙
幸せだって手紙である以前に
ちゃんと、届くだろうか――
生きているのだろうか
そんなのわからない
私も貴方も死はいつだって隣にいる
だから10年後の私から届いた手紙が
ちゃんと幸せであるように
私は今生きて
10年後の手紙を綴り変える――。
王宮の使者としてやってきたのは…かつて巫女隠しの村での後処理を預かってくれた青年だった。宿屋でミレーヌはパタパタと彼を迎える。
「あ、えーと。あのときはどうも。えーと…」
「ゼアル、だ」
「ゼアル…さん」
2人に気まずい沈黙が流れる。おかしい。そんなに物覚えが悪い訳でもないのに、彼の存在感のなさ…いや、もやっとした感じはなんなんだろう。(私ったら若いのに…)ミレーヌは1人で反省会をする。
「ほかの人は?」
「みんな出払ってます」
背の高い彼は近くまでは来ない。宿屋の部屋の入り口からは足を踏み入れないのだ。少しほっとした。
(青い髪…珍しい)
と、思ったけど。彼は他のことを考えているようだった。
今できることをしてください。やりたいことは、先送りせず、やってみてください。
頭の中だけで、とやかく考えて、できるかなんて心配しても、もう十分色々悩んできているのだから。
たとえ、うまくいかなかったって、挑戦したということだけでもよかったと納得できるから。やってみる前に、あれこれ思い悩むのはもったいないのです。
とにかく、興味を持ったことは何でもやってみてください。
「10年後の私から届いた手紙」
俺は、母親が大嫌いだった。幼い頃から、俺は母親に怒られ続けてきた。ほんの些細なことでも。幼稚園児の頃、親の似顔絵を描く授業で俺は母の似顔絵を描いたが、あとで母に見せたときに
「何これ?怒ってるみたい。もっと笑った顔描いてよ。」と文句を言われた。
俺がカーペットにジュースを溢して、シミを作ってしまったときにも、母の怒声は止まらなかった。
小学生のときに家庭内での調理実習の課題をやることになった。そのときに、母は俺に細かくグチグチ言われた。「切るのが遅い!早く入れて!」「さっさと炊いちゃいなさい!」「ほら、味噌入れて!」こんなのばっかりだ。もう嫌になってしまって、飛び出してしまいたかったけど、未成年である俺には1人で生きていく知識も経済力もなかったので、仕方なく家にいるしかなかった。
そして、大学を卒業して就職した半年後に俺はようやく親元を離れてアパートを借りて生活を始めた。
親のいない空間は、最高に気持ちよかった。乱れやすさはあるものの、朝からのお菓子を爆食い、好きなものを好きなだけ食べてよく、嫌いなものは食べずにいられる解放感、お金を自分の自由に使える快感…。嬉しさでしかなかった。
そんな中でも、ストレスはあった。本来なら起きなきゃいけない時間には10分寝坊するし、風呂に入りたいのに、疲れて入るのを忘れるなら風呂キャン界隈で、女性社員には「臭い」と罵られる。おまけに、仕事から帰ったら疲れて何もやりたくなくて、結局何もやらずに寝る。着替えもせずに。
そこから10年が経ち、俺は彼女ができた。まだ付き合い始めて7ヶ月だ。その彼女は、俺のアパートの部屋を見たときに、こう言った。
「晴也さんってさ、アホだよね。」
突然の言葉に、ゾッとした。怒りとか、悲しみとかの前に驚きが出て何も言えなかった。
「なんでこんなしけっているポテチを、大事そうにしまっているの?不味くない?しかも、運転免許証が流し台のところに置いてある。というより、放り投げてあるって言った方が正しそう。食糧は、カップ麺か揚げ物の惣菜、スナック菓子ばかり。野菜などの栄養のあるものを、日々の食生活で取り入れていないでしょう。恐らく、あなたの日々の栄養バランスは最悪でしょうね。まぁ、あとは一言に言えばだらしないかなぁ。私が来るから慌てて片付けたんだろうけど、埃っぽいし臭いよ、この部屋。」
「なんで、そんな小姑みたいなこと言うの?」
俺は後から段々腹が立ってきた。
「あなたの地雷を一旦踏んでみたかったから。なんとなくあなたが何を言えば怒らないのか、知りたかったから。でも、これで1つ知れてよかった。」
あぁ、どうしてこんな女性と出会ってしまったのだろう。この女性に、ボロクソ言われるぐらいならもっと日頃から母の言うことを聞いておくべきだったと、なぜか訳のわからない後悔をしてしまった。この女性と出会ってしまったことが、俺が母へ反抗した罰なのだろう。10年前の自分を、叱ってやりたい。
10年後の私から届いた手紙
10年後の自分に手紙を書くことはあっても、
10年後の自分から手紙が届くことなんてないよね。
もし10年後の自分から手紙が届くと想像してみても、
「ありえない」の五文字で終わってしまう。
現実的過ぎる考え方は創作の世界では生きにくい。
ただやっぱり10年後は気になる。
だれと、どんなことをして、どんな風に生きているのか。
想像してみても、これからの人生はわからない。
歩んだことのない道は、わからない。
だから私が作っていく。
今の私が過去になるように、今の私が未来になる。
10年後の私が10年前の私に手紙を書くように。
――拝啓、十年前の私。
夕暮れの図書館。偶然見つけた手紙の書き出しに、目を瞬いた。
「十年後じゃないんだ」
思わず声に出てしまい、慌てて辺りを見回した。
今日は珍しく、図書館には誰もいない。私語を咎められないことに安堵して、手にした紙に視線を落とす。。
読んでいた本の最後のページに挟まっていた四つ折りの紙。誰かが挟んだまま忘れたのだろうそれに何が書いてあるのかが気になって、つい開いてしまった。
丸みを帯びた字は女子のものだろうか。どこかで見たことがあるような気がするその字を不思議に思いながら、もう一度書き出しの文字を見る。
十年前。何度見ても、その文字は変わらない。
書き間違いだろうか。それとも過去の自分に当てた手紙なのだろうか。色々と考えながら、続きの文字を指で追い始める。
誰かの手紙を盗み見ることの罪悪感は、好奇心に負けて萎んでしまっていた。
――まず最初に、友チョコという流行りには乗らない方がいい。肝心の想いを伝えたい人に、正しく伝わらなくなってしまうから。
自分自身に当てた手紙だからなのか、最初から遠慮をしない文字が心を抉る。昨日友達とチョコを交換し合い、その流れで彼に本命のチョコをあげたけれど反応がいまいちだったことを思い出した。
この手紙の主も、同じだったのだろうか。恥ずかしくて誤魔化したチョコに込めた想いが、相手に届かなかったのだろうか。
切ない気持ちに眉を寄せ、続く文字を追っていく。
――次に、相手の優しさを当然だと思わないで。彼が優しいのは、あなたを大切に思っているから。誰にでも優しい訳じゃない。
きゅっと唇を噛み締める。
彼はいつだって優しかった。他の人にもそうなのだと、自分が特別だからではないのだと、そう思い込もうとしていた。
自分に宛てられた手紙ではない。それは分かっていても、どうしても彼のことが思い浮かんでしまう。
もしも彼の優しさが特別なのだとしたら。期待しても、いいのだろうか。
――自分の気持ちを誤魔化して手を離していると、本当に彼が離れていく日がくる。それが嫌なら、勇気を出して向き合わないといけない。
文字を追っていた手を握り締めた。
彼が離れていってしまう。その言葉の意味を、すぐには理解できない。
彼とはいつも一緒だった。幼い頃、いつも遊んでいたのは彼とで、学校で他に友達ができた後でも、彼と会わない日はなかった。
いつも一緒の帰り道を、一人で帰る時がくる。
当たり前だ。変わらない関係はないのだから。この先も無条件で彼の隣にいられるはずはない。
別れの予感が胸を苦しくさせる。息がうまく吸えず、頭がくらくらした。
「勇気を出せば……」
言葉にしてみるものの、それはとても困難なことのように思えてしまう。途方に暮れながら最後の文字に視線を落とした。
――最後に、後悔はしないで。未来なんて、きっといくらでも変えられるのだから。だから何でもすぐに諦めて、後悔するのだけは止めてほしい。
後悔の文字から目が離せない。
自分もこの先、後悔するのだろうか。そして過去の自分に宛てて、手紙を書くのかもしれない。
深く息を吐いた。手紙を戻そうと四つ折りにして、本に挟む。
「――あれ?」
手紙の隅に、小さく殴り書きのような少し乱れた文字が書かれているのに気づく。この手紙の文字とは違う、見慣れた字。
目を見開いて、文字に触れようとした時だった。
「ここにいたんだ。そろそろ閉館時間だよ」
彼の声がして、咄嗟に本を閉じ振り返る。いつもと変わらない笑顔を浮かべて、彼が近づいてきていた。
「それ、借りるなら早く手続きに行かないと」
「ううん、大丈夫。丁度読み終わった所だから」
曖昧に笑って、本を返しに棚に向かう。心臓が煩いくらいに跳ねて、落ち着かない。
ちらりと見る彼に、変わった所はない。少なくとも自分にはそう見える。それなのにこんなにも苦しいのは、手紙を読んでしまったからだろうか。
「どうしたの?」
本を返しても戻らない自分を不思議に思ったのか、彼が首を傾げて近づいてくる。図書館の静けさがやけに重たく感じる。まるで世界に二人だけ取り残されてしまったような心細さに慌てて頭を振り、何でもないと笑って彼に駆け寄った。
「こら、図書館では走らない」
「ごめん。早く帰りたくなっちゃって」
溜息を吐く彼が手を差し出し、それに迷いなく自分の手を重ねる。繋いだ手が温かい。いつもと同じ、彼との距離。
そう思うのに、息苦しさは続いている。不安が消えなくて、いつもより少しだけ強く彼の手を握った。
彼がこちらを見る。笑顔で誤魔化しながら、繋いでいない手をこっそりと握り締めた。
「何かあった?いつもと違う気がする」
「そう?変わらないと思うけど……ちょっといつもと違うジャンルの本を読んだからかな」
偶然手に取った本の内容など、とっくに頭から抜けている。
代わりに頭の中を占めているのは手紙の内容と、殴り書きの一文だった。
右上がりの少し崩れた字。それは確かに自分の字だった。
書いた覚えはない。そもそもあの手紙も、偶然本を手に取らなければ気づくこともなかっただろう。
――嘘つき。
たった一言。それが何を差しているのかは分からない。
十年前の自分自身に宛てたということか。手紙の内容自体が嘘なのか。
誰が嘘つきで正直なのか。何も分からないから、何も言えない。
「あの、ね。聞いてほしいことがあるの」
ならば嘘つきを探すよりも、嘘にしたくないものを本当にすればいい。
「昨日あげたチョコなんだけどね――」
勇気を出して彼に告げる。そうすれば、少なくとも自分の想いは伝わるから。
誰もいない、夕暮れの帰り道。
いつもと変わらないはずの彼との関係に、一歩だけ踏み込んだ。
20260215 『10年後の私から届いた手紙』
10年後の私から届いた手紙
25歳 色々あったね
辛いことも、めでたいことも
今は毎日元気にやってるよ
めんどくさい性格に悩むと思うけど、なんとかなるさ
自分の心に正直に生きてね
『10年後の私から届いた手紙』
昨日、彼女からもらったバレンタインデーのチョコレート。
ラッピングの隙間から、はらりと1枚の用紙が落ちた。
「ん? なんだ?」
拾い上げたそれはベージュを基調にしたシンプルなデザインの便箋ながらも、所々に星型の金箔が施されている。
彼女らしい上品なセンスに口元が緩むのを感じながら、几帳面に綴られた文字を追った。
『23歳の嶺姫(れいじ)くんへ』
生真面目な彼女にしては珍しい遊び心に、目を見張る。
『拝啓 ますますご健勝のこととお慶び申しあげます。』
便箋のデザインからは程遠いかしこまった文面に、彼女の照れ隠しが垣間見えた。
あの人、手紙書くの好きなクセにそういうところあるよな。
微笑ましく感じながら、俺はこの堅苦しい手紙に目を滑らせていく。
『この手紙は34歳になった私が書いています。23歳の嶺姫くんは、ことあるごとに結婚しようと急かしていました。』
え。
これ、破局フラグじゃないよな……?
別れる気も手放す気も毛頭ないけど?
若干、心臓が嫌な音を立て始めるが、内容は俺の想像とは180度異なるものだった。
『現在、私は嶺姫くんと幸せに暮らしています。子どもにも恵まれました。3人ともかわいい女の子です。ネコちゃんをお迎えする予定でしたが嶺姫くんがネコアレルギーだったので、ペットの夢は叶いませんでしたが毎日楽しく過ごしています。』
ネコアレルギーとかはないけどな?
俺に対する雑な解像度に、フッと息をこぼしてしまう。
『嶺姫くんの気が変わらない限りではありますが、私が25歳になったあかつきにはこちらからプロポーズさせていただく所存です。
つきましては、今後のプロポーズの頻度を減らしていただければ幸いです。 敬具』
……おかしい。
ここはこれからも、好き好き大好き超愛してる結婚しよう♡ という俺の告白を受け入れる場面では?
これではこれ以上ウザい告白は辞めろと言わんばかりの文面ではないか。
俺は、先に寝室で横になっているであろう彼女のもとへ移動した。
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いつもありがとうございます。
むしろここからだろ、というところで力尽きました……。
すみません。
体の節々が言うことを聞かず。。。
快調したら続きを書きたいです。
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