かたいなか

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12/23/2025, 6:51:07 AM

年末も近づいてきた、最近最近の都内某所です。
某そこそこ深めの森の中の、本物の稲荷狐が住まう稲荷神社は、年末年始の準備が進みます。

本物の稲荷狐が組み立てた破魔矢、
本物の稲荷狐がお祓いしたお守り、
本物の稲荷狐が清めた御札や水琴鈴。
丁寧に箱に詰めて、大晦日に備えます。

ところで今年は宿坊の、回廊をライトアップして、
美しい光の回廊にするのが吉であると、
ここの稲荷狐の家族がお仕えしている、ウカノミタマの大神様からのお告げ。

そうと決まれば美しく、稲荷神社に相応しく、
宿坊の回廊を飾りましょう。
某稲荷神社に住まう稲荷狐はさっそく、大神様からのお告げの人選に従いまして、
人間を2人ほど神隠し、もとい、稲荷狐の名のもとに借りてきたのでした。

「あの。こちらも年末の電飾の、電気設備のメンテナンス作業がですね。まだ終わってなくて」
ひとりは「ここ」ではないどこか、別の世界で、難民シェルター内のライト装飾を担当している、
カモシカというビジネスネームの男性です。

「カモシカさんだけで、十分でしょう?
照明など、私は専門外も良いところです」
もうひとりはカモシカの別部署、法務部でパトロールや警察みたいな仕事をしている、
ツバメというビジネスネームの男性です。

どちらも言い分はある模様。
でも稲荷狐の一家のおばあちゃん、人間の都合なんて、ちっとも気にしません。
「言い訳はいらないよ。さっそく取り掛かりな」
稲荷狐のおばあちゃんが言いました。
「美しく、稲荷神社らしく、なにより今年の最後に相応しい、光の回廊の案を作るんだよ」

じゃ、私はノラのやつとお茶に行ってくるから。
私が帰ってくるまでに企画書上げとくんだよ。
おばあちゃん狐は尻尾を上げて、ウキウキ振って、
ツバメとカモシカが勤める職場に、とてとて。
行ってしまったのでした。

困ったのはもちろん、ツバメとカモシカです。

「光の回廊?」
おばあちゃんが置いていった、神社の宿坊の回廊の図面を見ながら、カモシカが頭をカックリ。
「ひかりの、かいろう……らしいですね?」
宿坊の図面を一緒に見ながら、ツバメもツバメで同様に、頭をカックリ。

ただ単純に、LEDライトのテープを引っ張って、廊下という廊下をライトアップして、
はい、光の回廊です、
という案を一応、保険にひとつ。
「要するに、こうだよな?」
「それで住むなら我々はキツツキ査問官に拉致られちゃいませんよね……」
『キツツキ査問官』とは誰だって?
それはほら、お題と関係ないので放っとくのです。

「稲荷神社らしい電飾?」
「アイデアあります?」
「こっちが聞きたい」

なんだろう、なんだろな。
稲荷神社の稲荷狐に、目をつけられたのが運命。
諦めましょう、そうしましょう、ひとまず稲荷狐のコンコン依頼するとおりを為しましょう。
ツバメとカモシカは2人して、うんうん悩んで議論して、小さくイメージなどラフ画して、
「光の回廊」の元凶が帰ってくる5分前くらいまで、ずっとうんうん悩んでおったとさ。

12/22/2025, 8:52:25 AM

前回投稿分の続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこの収蔵部局員・ドワーフホトは、
前回投稿分のおはなしで、韓国の薬師の「구미호(クミホ)」、九尾狐のおばちゃんから、
産地直通、台湾茶を購入しました。

「アリサンっていう山のー、
すごく、高いところで育ったお茶なんだって〜」

はい、どーぞ。
職場に戻ったお嬢さん・ドワーフホトは、
経理部の窓際、明るく温かい日差しの入るスペースのコタツに入って、タパパトポポ、とぽぽ。

大好きな親友のエンジニア・スフィンクスと、
同じコタツに入って編み物などしてるおばあちゃん・ノラばぁちゃんに、
さっそく、バニラの美しい香りを咲かせるお茶を、
振る舞ってやるのでした。

ところでドワーフホト、台湾茶は始めてですが、
淹れ方はこれで合ってるのかしら?

「淹れ方?知らねぇよ。
俺様が美味いと思えば美味い淹れ方で、
だいたいホトが淹れる茶はサイコーに美味い」
で、アリサンってどこだ。
万年コタツムリのスフィンクスは、お茶の準備ができるまでの間でもって、
コタツのカゴから出したゆずの皮を削ります。
白くアイシングされた塩バターのシュガークッキーに、サラサラ、かける予定なのです。
「ふーん。タイワン。アリサン。だいたい1500メートルくらいで作られる茶っ葉。

……ツバメのやつに教えたらアイツぜってー長野で茶っ葉の栽培計画とか立て始めるな」

「ツバメさん、向こうに別荘、持ってるのぉ?」
「しらね。でもアイツ、最近1日1回は必ず長野の天気予報チェックしてるぜ」
「それはアレだよぉ。ツバメさんの上司さんが、どっさり降った雪で、雪遊びしたいからぁ」

「へ?」
「うん」
「……へ?」
「らしいよー」

へっッくし!
ドワーフホトやスフィンクスが座るコタツから、遠くとおく離れたあたりで、
誰かが盛大にくしゃみなど、しました。

ということでそろそろお題を回収しましょう。

「黄色い雪が、ふわーふわー」
ゆずの皮がシュガークッキーに降り積もるのを、
ドワーフホト、穏やかな幸福顔で観察します。
「積もってるね〜」

編み物が一段落したノラばあちゃんも、
ああ、これは降り積もってるねぇと、笑います。

「ちょうど良いゆずが手に入ったんだよ」
自分のアイシングクッキーにゆずを削り終えると、
スフィンクスはドワーフホトのクッキーにも、
ガリガリ、ゆず皮の雪を降らせました。
「ホト。おまえもきっと、気に入るぜ」

ガリガリ、がりがり。
親友にもゆずを楽しんでほしい、スフィンクスの想いが積もります。
ガリガリ、がりがり。
シュガークッキーに降り積もる想いは、柑橘の香りをパッと咲かせて、
バニラの台湾茶の香りと、よく混じりましたとさ。

12/21/2025, 6:30:15 AM

先月は、「時を繋ぐ糸」というお題が出ました。
今月は「時を結ぶリボン」とのこと。
完全フィクションなおはなしをひとつ、ご紹介しようと思います。

最近最近の都内某所、某そこそこ深めの鎮守の森に、本物の稲荷狐が居る稲荷神社がありまして、
稲荷狐の一家は皆仲良く暮らしておりました。

そのうち稲荷狐のお母さんは稲荷神社の近くで、
不思議な不思議なお茶っ葉屋さんをしておって、
緑茶からハーブ茶、狐の薬草を使った薬茶等々、
色々と、取り扱っておりました。

で、
その日は稲荷神社に直々に
「ここ」ではないどこか、別の世界から
ドワーフホトというビジネスネームの世界線管理局の局員さんが良きお茶を探して
お買い物に来ておったのですが、

というのもその日、稲荷神社に、
同じ狐の人外、お母さん狐の海外取り引き先、
韓国の「구미호(クミホ)」、九尾狐が
台湾とモンゴルの薬と茶葉をどっさり持って
稲荷神社に訪問販売しておりまして。

「本場直通。阿里山の烏龍茶です」
タパパトポポ、とぽぽ。
淡い水緑色した急須から、べっこう飴の色したお茶が小さな試飲用カップに注がれます。
「この香りは、この山、この標高、この環境だからこそ、生まれた奇跡の香りなのですよ」

ドワーフホトのお嬢さんが、カップに鼻を近づけると、パッ!甘いあまい香りが咲きました。
「はゎぁ……」
ほっこり温めたバニラのような良い香りを、体いっぱいに吸い込んで、ドワーフホトはもう感動。
「お砂糖入れてないのに、ハチミツも入れてないのに、あま〜い香りとあま〜い味がするぅ……」

真空パックされて長期間保存できるとのこと。
ドワーフホトはさっそく3袋、即決です。
「お買い上げ、ありがとうございます」

稲荷のお母さん狐が丁寧に、紙袋に入れます。
韓国の九尾狐はその間、ドチャクソに遊べアソベしてくる稲荷子狐の頭を撫でて接待中。
稲荷子狐に「アニョハセヨおばちゃん」と呼ばれている薬師の九尾狐、は子狐のお気に入り。
だって神社でお母さん狐と商談するたび大陸のお肉や伝統お菓子を土産に持ってきてくれるのです。

「おまけに、これをどうぞ」
ドワーフホトがモンゴル茶の、
中性脂肪が気になる方へ
と書かれた宣伝文句に釘付けになっておると、
稲荷子狐のお母さんが、茶色い紙で丸く包まれた玉を3個、ドワーフホトに渡しました。

チョコレートボンボンを包んだお菓子のような見た目の、ピッチリ固くて小さなそれは、
丸く固められて紙包装された、プーアル茶。
「これも、もちろん産地直送のものです」

へー。おもしろーい。
ドワーフホトが小さな個包装ボンボンモドキの、茶っ葉の包みを開いてみると、
やっぱりチョコレートボンボンのような色した、固くて丸い玉がコロン、出てきました。

これがプーアル茶だそうです。
これも、中性脂肪に良いそうです。
へー。おもしろーい。
でも、いくら紙で包まれているとはいえ、
このまま持って帰っては、なんだか劣化しそうで、ちょっと心配になるのです。

ここでお題回収。
「ここ」ではないどこか別の世界から来たドワーフホトは、サッと不思議なリボンを取り出しました。
それこそ、「時を結ぶリボン」。
先月のお題で登場した「時を繋ぐ糸」から織られた生成物にして、便利な小道具。

「これで〜、よし、っとぉ」
きゅっ、きゅっ。
ドワーフホトがボンボンショコラモドキの紙玉を、幅広のリボンで更に包んでよく結ぶと、
時を結ぶリボンはリボンの中の物の時を止めて、
「それを包んだ時」に、結び固定するのでした。

「あら便利なものをお持ちですのね」
「物々交換、うけたまわりまぁす」
「茶っ葉の長期保存に丁度良いわ」

わいわい、やいやい。
稲荷神社の茶っ葉訪問販売は大収穫。
その後も20分30分、ほっこり続きましたとさ。

12/20/2025, 4:32:56 AM

手のひらに乗っかるハムスターが、
手のひらの上でナッツを食べて、
ぷくぷく、ぷくぷく。感想を述べるおはなし。

最近最近の都内某所、某アパートの一室に、
藤森という雪国出身者がぼっちで住んでおって、
だいたい3年ほど前から、
部屋に不思議な動物だの別世界から仕事に来ている人だのが、訪問してくるようになりまして。

一番最初は近所の稲荷神社の餅売り子狐が。
その子狐が友達を連れてきて子狸、子猫等々。
それから別世界で管理局に勤めるドラゴンや、
そのドラゴンの飼い主(????)、
管理局勤務のハムスターまで。

しゃーないのです。 そういうおはなしなのです。
メタいハナシをすると、ここまで続いてきた千の物語、千のお題の積み重ねによって、
藤森の部屋が藤森食堂と化してしまったのです。
細かいことを気にしてはなりません。

で、そんな藤森のアパートに、その日、どこからともなく出現したのがハムスター。
「藤森!ふじもりッ!来たよ!」
プププププ!ぷくぷくぷく!チューチュー!!
興奮して鳴くハムスターです。管理局から貸与されたビジネスネームを、カナリアといいます。
ハムスターなのにカナリアとは不思議ですね。
「ふじもり!早く、はやく、例のブツを!」

プクプク!ちちち、チューチュー!
とっとこカナリア、藤森がデパ地下のクリスマス福引きで、プレミアムでラグジュアリーな高級ミックスナッツをゲットしたと聞きまして、
本能まっしぐら、秒で馳せ参じたのです。

カナリアは藤森の、日頃の低糖質低塩分なミックスナッツのチョイスは信頼しておったのですが、
なんてったって今回は、ラグジュアリーです。
丁寧に手摘みされ、丁寧にローストされ、最高品質の甘味やら塩味やら、プレーンやらのナッツです。

桐箱に入って1箱お値段四捨五入の5桁。
とんでもねぇ値段なのです。
「藤森!」

とっとこカナリアがトトトトト!
猫も真っ青の爆速神速、豪速で藤森に突撃して、
健気に藤森のズボンをよじ登ろうとしましたので、
藤森は大きなため息ひとつ吐いて、じゃらっ。
手のひらに高級ナッツミックスをのせて、
その上にカナリアを、のせてやりました。

「はぁッ!これが、最高級ミックスナッツ」
手のひらの贈り物です。 お題回収です。
カナリアは藤森の手のひらの上で、まず、ほどよくローストされたアーモンドをひと粒。
両手で掴んで、体いっぱいに香りを吸い込みます。
「なんてフレッシュな香りだろう!」

プププ、ぷくぷく、ぷぷぷぷ、プクプクプク!
藤森のチベットスナギツネなため息も気にせず、
とっとこカナリア、藤森の手のひらの上で、藤森の手のひらに盛られた贈り物を、カリカリカリ!
存分に、それはそれは存分に、堪能しました。
「素晴らしい、素晴らしい! はぁはぁ!
見てごらんよ藤森、このカシューナッツ!このマカダミアナッツ!なんて大きくて、良い香り」

「あの。カナリアさん」
「なんだい藤森。お代なら、後でちゃんと払うよ」
「そうじゃなくて。どうやって知ったんだ。
私が後輩の高葉井に、ナッツが当たったとメッセージを流して、あなたは秒で来た」

「だって僕その高葉井と一緒に居たもん」
「はぁ。 ……は?」
「その高葉井と一緒に居たもん」
「は??」
「ねぇ藤森ナッツおかわり」
「はぁ……」

チーチー!ちゅーちゅー!
プレシャス高級ロイヤルナッツのラグジュアリーでガンギマリのカナリアです。
藤森が最初にカナリアのために用意した、手のひらの贈り物、手のひらのナッツは、もう枯渇。
「頬袋が随分と、その、」
「大丈夫まだ入る」
「無理しない方が」
「おかわり」

はぁ。 藤森はその日何度目かのため息を、長く小さく、吐きましたとさ。

12/19/2025, 6:27:45 AM

前回投稿分からの続き物。
雪の静寂、キンと冷えた白一面に、頑丈に固められたかまくらと、それから焚き火があります。
焚き火の上にはこれまた頑丈な枝が、三脚のように組まれておって、下では鍋がぐつぐつ。
とても美味しそうなスープが湯気を吹いています。

鍋の更に下では、ホイルに包まれた肉やらキノコやら、美味しそうな食材がいっぱい。

「魚はそろそろ良いな」
焚き火の世話をしておった男性が、木の枝を使ってホイルのひとつを出しまして、ガサガサガサ。
つつみを開くと、でっぷり太った川魚が、
かぐわしいバターとスパイシーなハーブをまとって、絶妙に、蒸し焼かれておりました。

「よし」
男性は世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の局員で、ビジネスネームをツバメといいました。
「マンチさん。1匹、」
1匹、焼けましたよ。
一緒に焚き火に当たっておった、別部署の局員のマンチカンに、ツバメはよく焼けた魚をm

「さかな!さかな!さか
あっつい。」
「でしょうね」

よく焼けた魚を薪でこさえた皿に盛り付けて渡してやろうとしたところ、
マンチカンの手に渡る前に、とつぜん稲荷の子狐が爆速で突入してきまして、
美味しそうな蒸し焼き魚をガブチョしたところ
ドチャクソに熱かったらしく悶絶しました。

非常にフィクションです。 そういう物語です。
細かいところは気にしてはなりません。

「いたい。あっつい。いたい」
「ほら、水で冷やしなさい」
「おみず、つめたい。やだ。あっつい」
「だから。その熱いやけどを、水で冷やすんです。
ほら。口を開けなさい。 あけなさい。
ほら。 ほーら。 こーぎーつーね。
やけどの治りが遅くなりますよ」
「やだ、やだ。おさかな食べる」

「……はぁ」

パチ、ぱち。
低温の雪原で、マンチカンの目の前で、
鍋とホイルを熱する焚き火が火花を吐きます。
パチ、ぱち。
遠くで獣が叫ぶ声が聞こえる程度の無風と静寂で、
管理局の局員、マンチカンが火を見つめます。

心の片隅で、自分の目標を考えておるのです。
というのもマンチカン、他人に先日「非力」と言われたのが、相当にショックであったのです。
で、強くなりたいとは思うものの、
他の局員から「お前が欲しい『強さ』ってどういう属性の強さ?」と聞かれまして。

「で、どういう強さが欲しいか、少しでも思い付きましたか、マンチさん?」
「難しいです。いろいろ、アレコレ、ずっとずっと、心の片隅で考えてはいたんです」

「それで?」
「とりあえず強くなりたいです」
「格闘技術を習得したい?」
「うーん、」
「フィジカルとして、筋力を増やしたい?」
「んんんんぅぅぅ……」

「肉焼けましたよ」
「たべます。」

おにく!おにく!キツネ、たべる!
ふーふーしながら魚をちゃむちゃむ、食っておった子狐が、ホカホカ焼けたお肉に尻尾を振ります。
「また、やけどしますよ」
「おにく、おにく」
「まて。ステイ。スーテーイ。こぎつね」
「おにく!」
「だから待ちなさいと何度、 こーぎーつーね」
「あつい。」

ジタジタ、バタバタ、わちゃわちゃ。
どこからともなく突入してきた稲荷子狐と、マンチカンと同じ職場のツバメとが、
何やら楽しそうにアレコレしています。

「うーん……」
強さって、 自分が欲しい強さって、何だろうな。
コトコト音をたてる鍋からスープをよそって、ふーふーしながら食べるマンチカンは、
心の片隅でその後も数日ほど、自分はどういう強さが欲しいだろうと、考えておったとさ。

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