同情』の作文集

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同情』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど

2/21/2026, 7:59:38 AM

手が震える。その手にきつく握った、滑らないよう念入り、きつくきつく縛り付けた刃が、ぬるりとした液体に塗れて鈍く光った。
これで、いい。これで、彼の罪は、全部……
目の前に転がる、魂を失ってただの肉塊と化した男と、目が合う。白く濁った水晶体が、情けなく震える俺の顔を反射して無機質で場違いな輝きを放っている。
数ヶ月前のことだ。夜も更け、草木も眠る丑三つ時。そんな時間に、家のインターホンが鳴った。引きこもりで昼夜逆転した社会不適合者である俺は、当然のように起きていて、中断させられたゲームに苛立ちながらそれに応えた。
無防備にも、ドアスコープを覗くことさえせず扉を開いたのだ。
そこに居たのは、俺の唯一の社会との繋がりにして、たった一人の幼馴染だった。株主だとかでやたら金持ち、そのクセ、社会的に何の価値もない俺をわざわざ養うような変わり者だ。その幼馴染が、ドアの前に立っていた。重そうな何かを引きずって、澱んだ光をその目に宿して。俺は、下を向くことができなかった。にこにこと屈託なく笑う彼の頬に跳ねた、鮮烈な深紅を見てしまったから。
彼は、人一人の命を奪った。しかも、猫が捕らえた獲物を飼い主に見せに来るように、わざわざ俺の元へソレを引きずってきた。道中には血痕がべったり残って、インターホンにもきっと彼の指紋と、彼の引きずる肉塊の血液が付着している。俺の関係を疑われるのは確実だろう。
「ねぇ。一緒に死体、埋めに行こ。」
遥か昔、学生だった、俺がまだ世界に受け入れられていた頃、よく彼からゲーセンに誘われた。その頃と変わらないトーンで、表情で、悍ましいことを言い放つ。結局、俺は彼と一緒に死体を埋めた。遠く離れた県の、地名も知らない山奥だ。
それから、俺は毎日怯えて過ごした。血痕は全て水で流したし、インターホンの血も拭ってある。けれど、いつここに捜査線がたどり着く、今の警察の技術は相当高いのだ。
そして、俺はそんな日々に耐えられなかった。全部全部、嫌になった。どうせ、社会から見たらゴミも同然な存在なのだ、俺は。それなら、いっそ。あの、クラス中から無視される、地獄のような学生時代から俺を救った幼馴染のために、この人生をめちゃくちゃにしてしまおうと、ふと思った。俺と同じような、社会にとってのゴミを一人殺して、自供する。それで、幼馴染の殺した、もう一人の人間も俺の罪にする。簡単な話だ。
でも、俺はやっぱりダメなやつだった。このお粗末な計画は、社会にすぐにバレた。幼馴染は捕まって、社会から批判の雨を浴びた。俺は幼馴染に罪を被るよう強制された、哀れな被害者だと。社会に馴染めなかった俺が、ただ彼に甘えていただけなのに、彼が俺を監禁していた、なんて根も葉もない噂すら流れた。彼は世間にとっての絶対悪になって、俺はその餌食になった哀れな被害者となった。
やめろ、やめろ!俺をそんな目で見るな!お前らが俺をこうした!俺の救いはアイツだけで――
社会の、同情を隠しもしない視線に耐えきれなかった俺はその日、この世界を後にした。奇しくも、俺の救いだった彼が拘留所で自死したのと、同じ日だったらしい。

テーマ:同情

2/21/2026, 7:32:40 AM

「ところで」
「ところで?」

「同上の同情みたいな?」
「言葉遊び?」

「まあそう。今回は同情なので」
「道場の同情とか」

「まあそこそこ同音異義語があるかな」
「ないとこんな遊びができないしね」


お題『同情』

2/21/2026, 7:16:40 AM

駅前に2段だけの階段がある
なぜ?と思うが生まれた頃にはできていた駅だから私は知らない
それほど古い路線ではなく、後付けの駅だから
おそらくもともとあった建物だと思う

見慣れたはずの景色に、違和感をおぼえる
なんだろう……
大学に行くために歩は緩めない
2限目からだから、朝は遅い
人はまばらだが、一瞬みんなが見る方向がある

女の子がいる

ただそこにいる
泣いてはいない、てか全然動かない
どこかに意識が飛んでいるかのようにぼーとしている

誰も声をかけない
どこか近づけない、面倒事に巻き込まれそうな予感がする

ぼさぼさの髪に、汚れがついて着古された服
足はまさかの裸足だ
手に持っているぬいぐるみだけがなぜか綺麗だ

大人はみんなちらりと彼女に目を向ける
……ただ、誰も彼女に声はかけない

見ていられないのは少女よりも大人たちのほうかもしれない

2/21/2026, 7:14:30 AM

同情

あなたの涙を見たとき
私の心音は
小さくきしんだ

「かわいそう」とつぶやく声は
風のようにやさしいけれど
どこか遠くから吹いているようで
あなたに届いているの?

ほんとうは
となりに座って
同じ高さで
静かに息をしたい

涙をぬぐうかわりに
その涙が落ちる音を
いっしょに聞きたい

同情は
差し出す手

でも
ほんとうのやさしさは
そっと隣にいること

あなたの空の色を
決めつけずに
ただ
見上げること

2/21/2026, 7:09:19 AM

同情した。

誰にでも、何にでも。

人から好かれるために。人から嫌われないために。

そしたら、そしたらね。

自分が見えなくなっちゃった。

『同情』

2/21/2026, 6:54:28 AM

『同情』

同情する側
同情される側

自分のかけた言葉に
ごめんと言った
わたしもそうだったから
おなじこと言われたら
きっとかなしい
わたしもあなたと
おなじと思ったから

どうして
そんなふうにあやまるの
わたしはなにも
気にしてないのに
あなたにごめんと言われて
わたしって かわいそうなの

ごめんなさい

2/21/2026, 6:50:39 AM

【同情】
―喫茶店の薫り―
「男子会しようぜ〜!賛成の奴手ぇ挙げて!」
声を発したのは無論、榎本だ。そして、案の定誰一人として手を挙げない。
「瀧君〜!手挙げようよ〜」
「嫌だ。面倒くさい。それより期末テストの勉強しろよ」
どこの高校行ってるのか知らないが、瀧の方が頭がいいことは確かだ。けれど、学校には行っていないらしい。昔色々あったのだろう。
「じゃあ、八木さん!堀川さん!勉強教えて…」
「あ〜、俺大学から色々書かなきゃいけないものがあったんだぁ!」
「俺、ちょっと今人生について考えてるから、忙しい。」
「八木さん、大学行ってないでしょ。堀川さんは悩みが膨大すぎる」
すかさず瀧がツッコむ。何故ここにはまともな奴がいないのか、と呆れる。
いや、でももう一人いたな、と考えていると、軽快な鐘の音と共に誰かが入ってきた。
「こんにちは〜。あんたら、何しとん?」
こってりな関西弁で入ってきたのは喫茶店の店員の一人、叶だ。
叶は見た目こそ、バリバリの女の子だが、中身の性別は男。女装が趣味の関西人だ。年齢は瀧や榎本より高く、八木や堀川より低い。百花と同じ年齢だそう。
「聞いてよ〜!叶ぅ!」
「えのき、どうしたんかいな?場合によってはぶっ飛ばすけど、一応話は聞くで」
「皆が冷たい〜」
「なるほどな。そら、えのきが悪いわ。」
「えのき言うな!てか、同情せい!」
叶は榎本に興味を失ったらしく、瀧に目を向けた。
「おぉ~、瀧君、偉いなぁ。そら、優しいお姉さんが教えてあげるわ」
「あ、ありがとうございます。ここなんですけど…」
「え!?嘘!フル無視!?」
榎本がショックを受けていると、猫の権左右衛門ちゃんが駆け寄ってスリスリしてくれた。
「……お前ぇ…、いい権左右衛門だな……」
猫に同情されている榎本なのだった。
今日も喫茶店には優しい色に染まっている。

2/21/2026, 6:47:03 AM

今日は徒歩で

ビアノのレッスンに

行かなければ

ならなかった

荷物を減らせるだけ

減らしていきなさいと

娘に言った

何を減らしたのか

よく見ていなかった

そして

クリアファイルに

入れていた

楽譜を忘れた

別の楽譜と

間違っていた

娘への同情と

私の頭皮から

ドッと

汗が吹き出る

教科書は彼女の意思で

入れていたようだ

事なきを得た





✴️672✴️同情

2/21/2026, 6:34:54 AM

「その気持ちわかるよ。辛いよね。よく頑張ってる。本当によく頑張ってるよ。」
あなたはそう言ってくれた。でも私は貴方の事は分からない。本心も思惑もその言葉を選んだ意味さえも。

こわばった肉を貴方の手が包んでくれた。凍ったものを水で解凍するみたいに、冷え切った身体を湯船に沈めるように温かさが私を包み込んでいる。
重なり合う皮膚の凹凸と摩擦さえも優しさを含んでいる気がした。

だから今は、その言葉を向けてくれたこの瞬間を大切にさせてください。貴方の皮膚の匂いを私の脳に焼き付かせてください。

お題:同情

2/21/2026, 6:30:14 AM

ひっそりと存在したかった。皆、何も触れず、何事もなかったかのように接してくれる。遠巻きにして、決して近くには入ってこない。

 なんて言ったらいいのか、どう接していいのか困っているのだろう。とりあえず、安全圏からの位置がずっと続く。

 でも、いつまで続くのだろう。だんだんそれが辛くなってくる。もう、いつも通り、自分ではそのつもりなのだ。

 そろそろ、その距離を解除して、誰か入ってきてくれないだろうか。声をかけてみようか。いつものように。人との何気ない触れ合いが、日常に戻してくれる気がするのだ。

「同情」

2/21/2026, 6:26:52 AM

うん、分かるよ、辛かったよね

泣きたいよね

皆酷いよね

死にたいよね

分かるよ、分かるよ、

同じじゃないけど

分かるよ、

わかってるよ

題名:同情

2/21/2026, 6:26:13 AM

電車にのり、空いている席に座る。
隣は、40代くらいの会社員だ。うとうとしている彼は、全身から疲労感が漂っている。降りる駅までは30分ほどかかるので、ボクも目を瞑って少し眠ることにする。


すぐに眠りについたボクは、ぼんやりと夢の中で漂う。隣の男性が見ている苦痛な風景が、ボクにもみえる。彼と同じ感情を味わいながら、これらすべてが浄化されますように、と願う。


目を開けると、隣にいた男性は立ち上がり、電車を降りていく。幾分、足どりが軽やかなように見受けられて、ボクはホッとする。



ボクは幼い頃から、近くにあるものたちの苦しみを同じように味わってしまうことに気づいた。はじめの頃は、ただ苦しさを一緒に感じるだけで何にもできなかった。ボク自身も苦痛で、どうしてよいか分からなかったのだ。

ある日、少女の苦痛な場面を共に味わったとき、ボクは彼女の苦しみがすべて浄化しますように、と心から願った。
すると、不思議なことにみえている風景の粒が、一瞬細かくキラキラと輝いた。その少女にまとわりついた重さがふわっと取り除かれたのが、ボクには分かった。


それ以来、いろんな場所でボクはいろんなものたちの苦しみをひっそりと浄化している。これが、ボクができる、ささやかなことだ。

2/21/2026, 6:18:33 AM

『同情』


共感って難しい

友人の失敗談を聞いたら
自分の同じような失敗談を
ついつい話し始めてしまう
これはただの同情になる

会話としても
相手からしたら困るだろう
されてなんとなくモヤモヤっとなること
無意識にしてしまう
気づいた分だけ1歩成長―――だろうか?


だが猫や犬の話になると
やはり同情を隠せない

トイレやご飯、毛の状態に
病院やその子のクセの話など
聞けば聞くほど大変だと思うし
凄くわかるなぁと思うし
自分の体験談だって話したくなるというもの

よく似た悩みが出てくるものだった


〜シロツメ ナナシ〜

2/21/2026, 6:07:23 AM

こんなことがあったんだよ
何それ、かわいそう

こんなこと言われたんだよ
何それ、ムカつくね

わたしは自分を
かわいそうだとは思ってないし
ムカついたわけでもないんだよなあ

伝えたのは事実だけなんだけど
わたしの気持ちを勝手に決めないでほしいなあ

それでも
一緒に感じようとしてくれるのが嬉しいから

でもわたしはそうは思わなかったんだよと
ちゃんと伝えるんだ

#同情

2/21/2026, 5:41:12 AM

前回投稿分に続くおはなし。
最近最近の都内某所、某本物の稲荷狐の家族が住まう稲荷神社の宿坊に、
ひとりのニンゲンの男性が、ピッカピカの新しいバイクを押して、やってきました。

「おはようございます。よろしくお願いします」

約7万キロ連れ添った愛車を諸事情で、去年の夏、看取ったニンゲンです。
しゃーないのです。高いところからバイクで跳んで、緩衝材も無い地面にドン!着地したのです。
詳細は過去作8月7日頃投稿分参照ですが、
スワイプが面倒なので、気にしてはなりません。

「はい。愛車安全祈願で予約の、ツバメさん。
祈祷料は既に納めて頂いていますね」
コンコン。さあ、どうぞこちらへ。
美しい黒髪の巫女さんが、ツバメと呼ばれたニンゲン男性を案内します。
道の先ではご年配のおじいちゃん神主さんが、
穏やかな笑顔でお祓い棒、大幣を持って、ツバメのことを待っておりました。

神主さんの近くでは、稲荷子狐がキャッキャ、きゃっきゃ。子狸や子猫たちと遊んでいます。
掃除で積まれた枯葉が楽しいのです。

「お義父さん。よろしくお願いします」
「うむ。では、始めるぞい」

しゃーんしゃーん、しゃーんしゃーん。
神主さんは慣れた所作で、大幣を左右に振ります。
しゃーんしゃーん、しゃーんしゃーん。
大幣の白いピロピロが、それに合わせて動きます。

子狐と子猫はピロピロに興味津々!
ところでツバメが持ってきたバイクは、座るところが非常に温かそうです。
なにより揉み心地が良さそうですし、爪研ぎにもピッタリに見えます……

「こりゃあ!イタズラしてはイカン!」
バリバリバリ、ばりばりばり!
子狐と2匹の子猫と、それから子イタチが、
せっかくの新車バイクに爪をたて、引っ掻き、さあタイヘン!もう傷だらけです!

祈祷をお願いしていたツバメは、
ここで丁度良くお題回収、
「同情」待ったナシの卒倒的ショックの表情。
そりゃそうです。せっかくの、新車なのです。

ツバメの同情さそう絶望をよそに、
稲荷子狐はバイクに爪をたてて登頂を目指し、
化け子猫と子猫又は座面で爪研ぎ。
子カマイタチがそれらに混ざろうとしてるのを、
化け子狸が必死になって、尻尾掴んで制します。

なんということだ。なんということでしょう。
この理不尽に、ツバメは耐えねばなりません!
なんと悲劇的なことでしょう(しゃーない)
ただ数少ない救いは、
子狐に子猫たち、この子供ーズが人外といえど、人語の分かる子供ーズであったことと、
ツバメにはとてもとてもウデの良い、あらゆる傷を修復できる、整備士のアテが在ったことです。

ということでまず、バイクを傷つける子供ーズを、バイクから剥がしましょう。
丁度良いことに、その日は3連休の前日。
ツバメも仕事の休みをとっておりました。

「枯葉で一緒に、キャンドルを作らないか」
ツバメが子狐たちに言いました。
「そこの枯葉をたくさん詰めて、ロウソクを溶かして流し込むんだ。
完成したらそれを使って、焚き火をしよう。自作の着火剤で、料理を作るんだ」

ほら。これを自分で作れるんだよ。
ポケットからツバメが美しい青色グラデのキラキラキャンドルを取り出して見せますと、
キャンドルの美しさと珍しさに、子狐たちは目が釘付け!たちどころにイタズラをやめました。
「さあ。枯葉を集めるのを、手伝ってくれ」

そこから先は、昨日投稿分のおはなしです。
ツバメは子狐たちと一緒に、先日から利用しておったところの宿坊でキャンドル教室を開講して、
その間に、神主さんが丁寧に丁寧に、本物稲荷狐の不思議なチカラをマシマシにして、
しゃん、しゃん。ご祈祷を続けます。

神主さんからツバメへの同情があったのか、
最初に納めておった祈祷料の半額が、後ほど、ツバメに返却されました。

枯葉のキャンドルが完成したら、あとはキャンプ場で調理遠足。
自分たちでゼロから作ったキャンドルは、はてさて、ちゃんと機能するのでしょうか……?

2/21/2026, 5:37:10 AM

今日は金曜日。
終業予定時間から15分が過ぎたが、今日中に入力を終わらせておきたいファイルがまだ残っている。

少々古い入力システムを使っているせいで、
要所要所に自分で保存ボタンを押さなければならない。
そのマニュアルを遵守しなかった後輩は
午後の作業が水の泡になっただけでなく、
苦手な上司からキツく注意を受けるハメになった。

同情はしない。でも、入力作業は引き受ける。
分担して作業したほうが早いでしょ、と言ったら
後輩は涙目になっていた。

本当は定時で上がるつもりだったが、予定通りには進んでくれないものだ。
飲み物がなくなりかけていたので、
カフェインレスのコーヒースティックを1本持って、給湯室に向かう。
コーヒーをひと口、少しだけホッとする。
あとどのくらいで終わるだろうか。
デスクに戻ると、同期が取引先との打ち合わせから帰ってきていた。

「あれ?直帰じゃなかったの?」
「出し忘れてた資料を思い出してさ。それより、見てこれ」

こそこそしながら、パソコンの画面を指差してくるので、
マグカップを持ったまま、画面を見る。
そこには「同情」と表示されていた。
驚いて同期の顔を見ると、小さくニヤリと笑う。

「簡易資料ならさ、上の行と同じ内容だったら…」
「上と同じの、同上ね」
「そうそう、そのつもりで変換したら、一番最初にこれが出てきた。すごくない?今のこの状況で」

いや、普通は笑えないだろう。
でも、この状況を知って戻ってきたということらしい。
しばらくして、後輩のデスクに向かった同期は、
未入力のファイルを受け取り、
結局全部終わるまで一緒に作業をしてくれた。

「今日はすみませんでした!本当に、先輩方ありがとうございました!」
使っている駅が違う後輩とは会社の前で別れて、同期と駅まで歩いていた。

「同情したから、手伝いに戻ってきたの?」
「ミスをした子には同情したかな。ミスはダメだけど、
今の時代、システムでカバーできることも多いのに、
この環境に置かれてしまったことは同情に値する」
「うちのシステム、化石だからね」
「それに、後輩のミスをカバーするのもオレたち先輩の役割だろ。だから、同期に対しては、同情じゃなくて共鳴かな」
また、ニヤリと笑っている。
ちょっと、ムカつく。だけど、肩の力が抜けた。

「なんか、お腹が空いたあ」
「お、じゃあ、駅前でラーメンでも食う?」
「ラーメンって気分じゃないなあ。マッハで働いたあとだから、せめて食事くらいはゆっくりしたいよ」

いい同期を持っていると知ることのできた金曜日。
さっきまでとは明らかに違う、清々しい気分に変わっていた。

【同情】

2/21/2026, 5:31:07 AM

もうヴィルが消えてから一週間が経った。
王国軍はもう国境を越えた。もはや国と国の戦いでは済まなくなったのだ。置いてきぼりを食らったカノン達は、小さな村で停泊している。
ギールス達は自分を見限り、ティーエは居なくなったヴィルの後を仲間の妖精達と追っている。それこそ町中に、森中に可能な限りの結界を作っていくが、彼の痕跡は見つからない。
カノンは邪念を振り払うように、小雨の中で素振りを続ける。動いていないと頭がおかしくなりそうだ。何もできない自分が嫌だ。誰を信じたらいいのか分からなくて気持ちが悪くなる。
「カノン…」
服はぐっしょりと濡れ、短刀は振るう度に水滴が飛ぶ。わずかな魔法の軌道だけが光っていた。濡れそぼったカノンは、もともとが小柄なのもありさぞかし悲壮感に溢れていたのだろう。一人残ってくれたミレーヌが軒下で見守っている。
「もう休んでよ。いつ、要請があるか分からないんだし…」
「要請なんてきっとないよ」
いつもよりずっと冷たいカノンの声に、ミレーヌが大きな瞳を見張る。仕方なく…というか彼女の出現がいいきっかけだったのだろう。カノンは訓練を終えることにした。
息は上がっているのに身体は冷えて、胃の中さえも奥底が泥のよう。
「おやすみ」
「待ってよ!風邪引いちゃう」
彼女を押し退けて自分の部屋に入ろうとするのに、布を持った細腕が止めてくる。
「どうしてぼくの側にいるのミレーヌ。君もこんな所にいないでもっと安全な所に帰りなよ…」
こんな人間のような人間でない自分の側に彼女がいるのが不思議だった。鬱陶しいとまで思えるほど。
「帰る場所なんか、どこにもないよ…」
ミレーヌが泣いていた。その途端カノンは彼女をものすごく傷つけてしまったのを知った、赤い瞳がすっと茶色に戻る。
「バカね。私達同郷なのよ、帰る場所なんか、どこにもない」
「ご、ごめ…」
そこまで言って、カノンも震えだす。
「こんな半端物に…なんで。ちくしょう」
いつの間にミレーヌはこんなに小さくなっちゃったんだろう。僕たちはいつからこんなに無力に苛まれるようになったんだろう。

(私達にできることをしましょう。どんなに微弱でも)

何度裏切られても敬虔なミレーヌは前を向いていた。

数週間前の彼女の言葉が甦る。ああ、思えばずっと彼女に支えられてきたんだ。
雨は強くなってきた。暖炉の薪が燃えている。もう深夜。
ホットワインを彼女が持ってきてくれた。スパイスが鼻を抜けて甘い香りが残りお腹に落ちて温まる。
同じベッドに座り、子供の頃のように世話を焼いて貰う。
「私が、居る」
暖かい小さな手が甘やかすように撫でてくる。

2/21/2026, 5:00:02 AM

"同情"

同情は、貰えるなら貰っとけばいいよ。
その方が楽で、面倒が少ないし。
見下されてる?それが何?別にどうでも良くない?
お気遣いありがとうとにっこり笑って受け取って、使える手札が一枚増えたくらいの心持ちでいるといい。
どんな種類の感情でも、それがこちらに向けられているという事実には価値がある。
利用できるものは何だって使えというのが、これまでに得た教訓なもので。

2/21/2026, 4:53:24 AM

- 同情 -

「ああ、分かっているとも。君はあの若い男にさぞご執心のようだからね」
 薄暗くて怪しい財宝の光が鈍くひしめくこの地下で、私はそう言い捨てた。どの家具も、調度品も、私の手によってあつらえられた究極のマスターピースなのに、私の顔に畏れをなしたのか、生みの親である私が触れても手のひらにはちっともなじまなかった。それでも良いと、それが私の運命なのだとこの数十年間で痛いほど納得していたはずだけれど、目の前の彼女のせいで全ては破茶滅茶だった。感情のままに掴んだ緻密な木細工のざらつきが、私の肌に必死で抵抗している。私の子供たちのこんな仕草には慣れていたはずなのに。どれもこれもお前のせいだ。まだ未熟で、私には持ってない純粋さを兼ね備えた、この忌まわしい少女に!オペラ座の怪人と謳われたこの私がひどく狼狽させられているのだ。
「ごめんなさい、あなたの気に触るようなこと、私…するつもりは……」
 目の前の────クリスティーヌ・ダーエはひどく怯えた瞳で、震えるように両手を重ねて、私を見上げた。こんな時でも、彼女は教会のステンドグラスを前に祈るように、必死になって、私を崇めている。逃げ出したいほど恐ろしいはずなのに、私を音楽の天使と信じてやまない彼女のその願望が、私を聖なる者へと昇華させる。手は血で染まり、醜い顔は仮面で押し隠さねばならない、こんな私を、クリスティーヌは死んだ父親からの贈り物だと、いまだに本気で信じているのだ!馬鹿みたいに縮こまる彼女は、さながら都会に流れついた哀れな野良の子猫のようで、ちょっとした圧で潰れてしまいそうだった。
「なら」
 澱みなく私は言葉を連ねた。この顔を代償に、天は恐ろしいほどの芸術の才能を私に降り注いだので、私の声には誰もを従わせることができる魔力があった。歌うように、さながらレチタティーヴォのように語りかけるだけで、どんな憎らしい人間も恍惚とさせることができた。もちろん、私の顔を見ようものなら、その魔力は一瞬で泡のように弾けるのだが。今は仮面が私の引き攣った顔を覆い隠してくれていた。
「私のためだけに歌い続けるんだ、クリスティーヌ。君の歌を羽ばたかせられるのは、私だけなのだから………」
 果たしてこんな風に彼女を自分の能力で押し潰すように、従えさせるのは正しいことなのか、分からなかった。クリスティーヌは私の声の微細な音階に一瞬肩を震わせたが、また私を薄い水が張った瞳で見つめ続けるだけで、肯定も、否定もしなかった。彼女には自分の過ぎた能力が効かないようで、また私は癇癪のままオルガンを拳で叩いた。途端に地下室が震えて、割れんばかりの大きい音色が響き渡る。どうして私はこのように激情を操れぬ人間になったのだ?せめて顔だけ、それだけが人生の汚点で良かったのに…………
「………もう休みなさい」
 私は彼女に背を向けたまま、力が抜けてオルガンの椅子に腰掛けた。彼女を遠ざけておかないと、きっとまた私は恐ろしい感情を彼女に打ち当ててしまうだろう。背中を丸めて、震えながらオルガンの鍵盤を抱え込むように、身をすくめた。いつからこうなってしまった?才能をうまく使いこなせない、声が澄んだ美しいいたいけな彼女を見てしまった時からか?そのまま彼女に近づいて、彼女を導く者を自称してしまったからか?彼女に仮面を外した姿を見られてしまった時からか…?いや、そもそもこの世に生を受けてしまったこと自体が、私の間違いだったのだ。初めから分かっていたことだ。あのまま、生まれながらにして奇怪な姿で地上に堕とされた私を、誰かが殺してくれていたら。クリスティーヌに会うことも、若き求愛者に心を許す彼女も、見なくて済んだのに……
「エリック、」
 か細い調べと共に、細い冷えた指先がそっ、と私の打ちひしがれた背中に触れるのが分かった。相変わらず恐々としたその手つきは、私の神経を逆撫でた。だが彼女が一歩踏み出して、私の横にぺたんと跪いて、片手で握りつぶせそうなほど小さな頭蓋を私の膝に擦り寄せてからは、逆立っていた感情は一瞬で消えてしまった。オルガンと、私の膝の間に頭を差し込むようにして、クリスティーヌは私に身をもたげる。細くて軽い巻き髪が、私の足をくすぐった。
「私……どうしていいか、分からないわ………」
 自分でも、正解が見つからないの。そう言ってクリスティーヌは私を見上げて、細くて可憐なつやつやとした指を、私の頬に触れさせた。ちり、と爪先が仮面を掠めて、私は一瞬身体を強張らせる。抉れた私の鼻を、彼女の馥郁とした、汚れを知らない花のような香りがくすぐった。以前のように仮面を取り去ることはせず、辿々しくも優しく、クリスティーヌは私を撫で続けた。その目から恐れの感情が全く消え去っていたわけではないが、深い哀しみと、戸惑いと、憐憫の色が、渦巻いていた。息を呑んだ。怒りや蔑みの感情を向けられたことは多々あれど、こんな風に穏やかに、長い間に見つめられたことは今まで一度もなかったからだ。たとえそれが、同情という形でも────
「エリック、私……」
「何も言うな」
 私は堪らず彼女の言葉を制した。今彼女は、怪人でも、オペラ・ゴーストでも……音楽の天使としてでもなく、ただのエリックとして、人間として私を見据えていたからだ。仮面越しでも皆が恐ろしがる私の顔を、クリスティーヌは柔らかく撫で続けた。私も思わず、彼女の髪を撫でようとするが、それこそ禁忌的な行いであると、思いとどまった。清廉な彼女に、本来私は近づいてはいけないのだ。それでも身を寄せる彼女を拒否することもできなかった。とうに崇めることを諦めた神に、心の中で語りかける。彼女こそが本物の天使だった、と。私はいつの間にか涙を流していたようで、その雫がクリスティーヌの指先を濡らした。

2/21/2026, 4:40:15 AM

同情

ついさっき、又吉さんが西加奈子さんの著作について語っている動画を見たところです。
著作の中で貧困や労働環境や過酷な状況に置かれた人々を当事者でない立場で書いていいのかという葛藤が西さんにはあったと聞いて、と又吉さんがお話しされていました。

同情という言葉からは「立場」に関わるというニュアンスを感じるような気がします。
「同情するなら金をくれー」が一世を風靡したことは記憶にありますが、当事者ではないやつから「可哀想に」とか「大変だね」という気持ちを向けられることよりお金もらった方がマシだーみたいなニュアンスでしたでしょうか、違ったでしょうか。
共感は欲しいけど同情はいらないとかね。
なんとなく悪ニュアンス付きがちな同情さんです。

貧困などの大きな問題ではなくとも何か問題を抱えた時、同じ問題を抱えた者同士で集まりたくなります。
同じような経験をしていると共感は得られます。
共感が非常な癒しをもたらすことがあることも知っています。
でも、解決に向けて考えてみると、似たような視点しか持ち寄れない場合が多いこともあります。

立場がまったく違う人は、まず問題を理解してもらうのが大変です。
説明で全てを賄わなければなりません。
先方の世界観にないことは、言葉を尽くしても伝わらないこともたくさんあります。
理解してもらいたい側は諦めを取り入れる必要があります。
ここで共感を求めてしまいたくなります、心の細枝が数本折れ始めているから。
でも辞めずに話していると、「ハッ」とすることがあります。
食べたことないフルーツの味を知った時みたいな。
その視点が解決へ導いてくれることもあります。

立場が違う人の場合、共感はできません。
でも自分が相手との交流を望んでいて、双方に橋をかけるには、先方にも原動力が必要です。
それが同情であってもこちらに向けるエンジンを止めずにいてくれたことに感謝を申し上げたい、一旦。
最初に橋がかかれば、そこから友情愛情尊敬や好き嫌い、なんでも発展させていけばいい。
嫌いなら橋を焼き払ってしまえー。

同情が局面を変えることもけっこうあるよ。

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